アオハルのタクト

碧野葉菜

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余興曲(バディヌリー)

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「すごいね、これならカンヌも夢やないよ!」
「いや、カンヌは映画な」
「あっ、え、えーっと、し、しし、ショ」
「ショパン国際ピアノコンクール」

 ピアノの最高峰と名高いコンクール。優希には何度か話したことがあるけど、なかなか覚えられん。俺と同じで、頭がええ方やない。だけど元気でおっとりとした性格やから、男女ともに人気があって友達も多い。
 優希とは幼稚園からの付き合いで、小中高も同じや。その上、家が近所で親同士の仲がええから、俺たちの関係もなんとなく続いている。

「ショパコンは誰でも出られるもんやないから。著名な音楽家の推薦や学位が必要やったりもするし」
「そうなんや、上手いだけじゃ出場すらできないんやね」

 金がかかる習い事や留学、それに伴う実績、経歴、そんなもん関係なく。才能一つで、道が切り開けるなら、世の中にはきっともっと、たくさんの偉人がおったかもしれん。
 ピアノを与えられ、弾いてみる。ただ楽しいだけで、できたらよかったのに。そんな簡単なことを、いつから難しいと考えるようになったんやろう。覚えてる。忘れもせん。お前のせいや。そうやろう――?
 紙袋を抱く手に力を込める。

「明日先生と面談やろ、しっかり話すんやで」
「ゆうちゃん、どうぞ入って。ゆっくりしてってね」

 父さんの言葉にしかと頷き、母さんに促されるまま、開いた門扉から入る優希の後に続く。
 優希は俺の両親とも仲がええ。どこかで聞いたことがある。男は母親似か、正反対の女性を好きになるとか。俺はどちらかなんて、今更知りたくもない。
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