金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第六章、金色の庭を越えて。

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「志鬼! 待って、待ってよ! 降りて、今すぐ私のところに帰って来て!」

 あゆらは志鬼の台詞の意味を理解したくなかった。
 それなのに、わかってしまう。
 いつから決めていたのだろう。自分のために、離れることを。
 あゆらが夢のように幸せな時間に耽っている間、志鬼は笑顔の裏で、厳しい現実と向き合っていた。

 電車が出る。
 あゆらは追いかける。
 どれだけ必死に走っても、届かない。

『アキは大家さんが引き取ってくれたから心配せんでもええわ』
「お願い、話を聞いて! 何も言わずに離れるなんてひどいわ! 私、ついて来いって言われればついて行くし、待てって言われたらずっと待つから……ねえ……なんとか言ってよ、志鬼!!」

 あゆらなら、きっとこうして懸命に引き止めてくれると思っていた志鬼は、だからこそ何も言わなかった。
 あゆらといたら決心が鈍る。
 甘えるのは、血の滲む努力をした後の褒美として、いつか叶えばと切に願った。

『五年経っても、あゆらがまだ俺のこと……』
「何!? 電車の音でよく聞こえない!」

 志鬼は、待っていてほしい、という言葉が喉まで出かかり、涙と一緒に飲み込んだ。
 あゆらを縛ることになると思ったからだ。

『もう、一人で暗い道歩いたらあかんで』
「志鬼! 待って! 待――」

 通信が途絶え、あゆらは丘の先端に立ち止まった。
 肩で息をし、涙でぐちゃぐちゃになった顔で、遠ざかる電車を眺めた。

「ずっと、一緒だって言ったじゃない……」

 ススキの穂が銀から金へ、彩りを変える頃、あゆらの青春のすべてはあまりに鮮烈な記憶を残し去って行った。
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