金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第六章、金色の庭を越えて。

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「……何よ……」

 無様に抵抗しながら逮捕されると思われた清志郎は、憑き物が落ちたように清々しい顔をしており、あゆらは怒りとも悲しみとも形容し難い苛立ちに襲われた。

「何よ! 自分だけスッキリした顔をして! 美鈴があなたに何をしたって言うのよ!? なんでそんな目に遭わなくちゃならなかったの……返して……返してよ人殺し!!」

 あゆらの必死の訴えが会場に響き渡る。
 やがて静寂が訪れると、清志郎はあゆらと志鬼に近づき、今までで最も穏やかな笑みを浮かべた。

「返すことはできないけれど、お礼を言うよ。……僕を止めてくれて、ありがとう」

 この時二人は、清志郎に猟奇殺人者以外の何かを感じた。
 
「……さ、署へ」
「いりません」
「何?」
「犯罪者の顔を隠すだなんて、おかしいでしょう?」

 清志郎は頭や手を隠す布を、拒否した。
 背筋を伸ばし、錠をかけられた腕を堂々と晒しながら、警官の後に続いた。
 
 清志郎がステージに残したバイオリンは、主人を失くした悲哀を物語るかのように浴びた光を懸命に瞬かせていた。
 彼の真実の涙は、あまりに遅かった。
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