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第六章、金色の庭を越えて。
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すっかり大降りになった雨に追われるようにして、二人は帰路に着いた。
志鬼のアパートの階段を駆け上がり、急いで家のドアを開け中に入る。
「うへ~、めっちゃ濡れてもたな」
頭や身体についた雨粒を手で払うようにして志鬼が振り向くと、「本当ね」と言いながらカーディガンを脱ぐあゆらがいる。
そうしてワンピース一枚の姿になったあゆらを見て、志鬼は心臓を跳ねさせた。
夏仕様の薄く白い布が濡れたせいで肌に張りつき、下着が透けていたからだ。
「ダッ……な、なんかタオル持って来るな!」
志鬼は靴を脱ぎ捨てると、耳まで赤くしながら浴室に向かう。
あゆらはその横にサンダルを揃えると、裸足で部屋に上がった。
「はあ、ほんま張りついて気持ち悪いな」
タオルを探す途中で、志鬼は煩わしそうに黒のTシャツを脱ぎ去った。
瞬間、広い背中一面を覆う桜と鬼が、あゆらの視線を奪う。
その刺青の意味を知る前と知った今では、まるで重みが違い、あゆらの目には別物のように映った。
失った親友への哀悼の意と、自身に課した生涯の戒め。
志鬼の肌を犠牲に存在する美の彫刻は、理由を知ることで悲しみと輝きを増し、あゆらの胸を切なくも捕らえ、離さなかった。
気づけばあゆらは、志鬼の背中に抱きついていた。
身体が勝手に動いていた。
志鬼を慰めたい気持ちと求める気持ちが合わさり弾け、どうしようもなかった。
「志鬼…………好きよ」
すがりつくような熱と、控えめだが確かに聞こえる告白に、志鬼の理性が飛んだ。
志鬼のアパートの階段を駆け上がり、急いで家のドアを開け中に入る。
「うへ~、めっちゃ濡れてもたな」
頭や身体についた雨粒を手で払うようにして志鬼が振り向くと、「本当ね」と言いながらカーディガンを脱ぐあゆらがいる。
そうしてワンピース一枚の姿になったあゆらを見て、志鬼は心臓を跳ねさせた。
夏仕様の薄く白い布が濡れたせいで肌に張りつき、下着が透けていたからだ。
「ダッ……な、なんかタオル持って来るな!」
志鬼は靴を脱ぎ捨てると、耳まで赤くしながら浴室に向かう。
あゆらはその横にサンダルを揃えると、裸足で部屋に上がった。
「はあ、ほんま張りついて気持ち悪いな」
タオルを探す途中で、志鬼は煩わしそうに黒のTシャツを脱ぎ去った。
瞬間、広い背中一面を覆う桜と鬼が、あゆらの視線を奪う。
その刺青の意味を知る前と知った今では、まるで重みが違い、あゆらの目には別物のように映った。
失った親友への哀悼の意と、自身に課した生涯の戒め。
志鬼の肌を犠牲に存在する美の彫刻は、理由を知ることで悲しみと輝きを増し、あゆらの胸を切なくも捕らえ、離さなかった。
気づけばあゆらは、志鬼の背中に抱きついていた。
身体が勝手に動いていた。
志鬼を慰めたい気持ちと求める気持ちが合わさり弾け、どうしようもなかった。
「志鬼…………好きよ」
すがりつくような熱と、控えめだが確かに聞こえる告白に、志鬼の理性が飛んだ。
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