金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第五章、真実と情熱

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 二人の格闘は半日に及んだ。
 文字通りボロボロになった二人は、ほぼ同時に畳の床に背中から倒れ込んだ。

「……俺の勝ちだな、俺の方がふらつくのが一瞬遅かった」
「……俺の勝ちや、俺の方が床に全身つくのが遅かった」
「俺だっつってんだろうが」
「俺や言うてるやろうが」

 しばらく推し問答を繰り返したのち、騰が静かに言った。

「お前は優しすぎるんだよ、こんな仕事は俺みてえに割り切れる奴じゃねえと無理だ。いつか組を出て行く奴に人殺しさせるわけにはいかねえだろ」

 騰は志鬼が組を継ぐなどそもそも考えてはいなかった。

「……何大人ぶってんだ、ガキはガキらしくピーピー泣けってんだ」

 そう言われても、志鬼はどうしても涙が出なかった。
 騰に泣き顔を見られたくないという男のプライドもあったかもしれないし、優介の命を奪った父の息子である自分に泣く資格はないと、心のどこかで思っていたのかもしれない。

「……なあ、騰」
「なんだよ」
「お前、でかい刺青してたよな。……俺にも、その彫り師紹介してくれ」
「……彫る気か? 一度やったら取り消しは利かねえぞ。一般人として生きたい気持ちがあるなら、好きな女ができたって難儀するだろうよ」
「俺なりのケジメや。優介のことを忘れんためにも、俺がどんな血の上の人間か、忘れんためにも」

 淡茶色の天井を見上げながら告げる志鬼に、騰はふっと笑った。

「そういうことなら仕方ねえな。男の覚悟に水を差すことはできねえ。……まあ、お前ならド派手な刺青入りでもついて行きたいって一般女が現れるかもなぁ……」

 墨を入れる最中、志鬼は呻き声一つ上げなかった。
 優介の病の苦しみと拳銃で頭を撃ち抜かれた痛みを思えば、大したことはなかった。

 こうして志鬼は鬼を背負うこととなったのである。
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