190 / 228
第五章、真実と情熱
38
しおりを挟む
志鬼はそのまま帰宅すると、父である組長の部屋に押しかけた。
力のまま襖を開いた先には、何食わぬ顔で和室の座布団に腰を据える父がいた。
志鬼は、怒りのあまり声が出なかった。
しかし、父は息子が何を言いたがっているか理解した。そして次に言い放った台詞が、志鬼の逆鱗に触れる。
「あの小僧、どうせ後半年の命やったんやろ。少し縮まっただけやないか」
――その通りだった。
優介は志鬼と親しくなった時からすでに余命宣告を受けていた。
関東から関西にいる名医に手術を受けるため転校して来たが、それでもダメだった。
だから大切に、大切に大切に最後のその時を迎える日まで思い出作りをしていたのだ。
志鬼の脳細胞がブチリと弾ける音がした。
もはや頭ではなく、本能で動いた志鬼は、父の頬骨が砕けるほど殴り飛ばした。
「ふざけんな……ふざけんなよクソが……! 優介の……優介の残りの人生はなあ、お前みたいなクズの一生よりずっとずっと尊いものやったんやぞ! それを……それを踏み躙りやがってカスがあああ!!」
組員も近くにいたが速すぎたせいで一瞬何が起きたかわからず、気がついた者から志鬼を止めにかかった。
「志鬼兄貴! ダメっすよ、それ以上やったら!!」
虎徹も駆けつけ、組長に馬乗りになり殴り続ける志鬼に飛びついたが返り討ちになるだけだった。
しかし一人だけ、志鬼に素手で太刀打ちできる男がいた。
騰は志鬼の学ランの襟ぐりを掴み、壁に投げ飛ばした。
「止めるな騰! こいつを殺して俺も死ぬ!!」
「似合わねえこと言ってんじゃねえか、ならまずは俺を殺せや」
サングラスを捨てた騰は、再び立ち上がった志鬼と拳でぶつかり合った。
力のまま襖を開いた先には、何食わぬ顔で和室の座布団に腰を据える父がいた。
志鬼は、怒りのあまり声が出なかった。
しかし、父は息子が何を言いたがっているか理解した。そして次に言い放った台詞が、志鬼の逆鱗に触れる。
「あの小僧、どうせ後半年の命やったんやろ。少し縮まっただけやないか」
――その通りだった。
優介は志鬼と親しくなった時からすでに余命宣告を受けていた。
関東から関西にいる名医に手術を受けるため転校して来たが、それでもダメだった。
だから大切に、大切に大切に最後のその時を迎える日まで思い出作りをしていたのだ。
志鬼の脳細胞がブチリと弾ける音がした。
もはや頭ではなく、本能で動いた志鬼は、父の頬骨が砕けるほど殴り飛ばした。
「ふざけんな……ふざけんなよクソが……! 優介の……優介の残りの人生はなあ、お前みたいなクズの一生よりずっとずっと尊いものやったんやぞ! それを……それを踏み躙りやがってカスがあああ!!」
組員も近くにいたが速すぎたせいで一瞬何が起きたかわからず、気がついた者から志鬼を止めにかかった。
「志鬼兄貴! ダメっすよ、それ以上やったら!!」
虎徹も駆けつけ、組長に馬乗りになり殴り続ける志鬼に飛びついたが返り討ちになるだけだった。
しかし一人だけ、志鬼に素手で太刀打ちできる男がいた。
騰は志鬼の学ランの襟ぐりを掴み、壁に投げ飛ばした。
「止めるな騰! こいつを殺して俺も死ぬ!!」
「似合わねえこと言ってんじゃねえか、ならまずは俺を殺せや」
サングラスを捨てた騰は、再び立ち上がった志鬼と拳でぶつかり合った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
8年間未来人石原くん。
七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。
「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」
と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず)
これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜
青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。
彼には美少女の幼馴染がいる。
それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。
学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。
これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。
毎日更新します。

キミ feat. 花音 ~なりきるキミと乗っ取られたあたし
若奈ちさ
青春
このあたしがなんでカーストど底辺のキリコと入れ替わんなきゃならないの!?
憧れの陽向くんとキリコが幼なじみで声をかけてくれるのはうれしいけど、なんか嫉妬する!
陽向くんはもとに戻る方法を一緒に探してくれて……
なんとか自分に戻れたのに、こんどは男子の夕凪風太と入れ替わり!?
夕凪は女の子になりたかったと、訳のわからないこというし……
女王様気取りの音無花音が、まったく立場の違うクラスメイトと入れ替わって奔走する。
あの日は、晴れのち曇りの天気予報だった
平木明日香
青春
中学生の頃に両親を亡くし、高校を中退した小鳥遊みかんは、祖母と2人で実家の牧場を切り盛りしていた。
学生生活を捨て、生活のために働くことを決意したみかんだったが、次第に自分の将来について不安を感じるようになってしまう。
そんな折、とあることがきっかけで祖母と喧嘩した彼女は、小学生の頃に別れた幼馴染からの誘いで、上京することを決める。
幼馴染は彼女にとっての初恋の相手であり、もう二度会うことがないと思っていた「夢の中」の人だった。
沖縄に住んでいた彼女にとって、東京という街はそれほどまでに遠い場所だった。
会うためのお金も、時間も、子供だった2人にとっては、あまりにもぶ厚い「距離」だったのだ。
上京後、彼の紹介で大学の寮に上がり込んだ彼女は、幼馴染の夢である「カメラマン」の仕事のモデルになるため、ありのままの自分を探す日々を送る。
今を生きる人を撮りたい。
彼にそう言われ、将来の自分についてを考える日々が始まった。
未来のこと、やりたい仕事。
生きるべくして高校を中退した彼女だったが、「生きる」ということがどういうことかを、いつからか見失っていた。
上京して5年。
彼女の元に連絡が入る。
祖母が入院したという、親戚からの電話だった。

読書のすすめ
たかまちゆう
青春
図書委員である宮本さんのところへ、ある日クラスメイトの吉見さんが頼み事をしにきた。
学年一の秀才、羽村君に好かれるため、賢くなれそうな本を教えてほしい、と。
苦手なタイプの子だなと思いつつ、吉見さんの熱意に押されて応援し始める宮本さんだったが――。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる