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第五章、真実と情熱
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横に立ち並んでいたあゆらと志鬼は、黙って清志郎の足音が聞こえなくなるのを待った。
それから幾分か経った頃、どこかぼんやりとしたあゆらの方が沈黙を破った。
「……帝くん、私と一連托生だと言っていたわ、お父様の名前も出して……さっき『あなたの人生は風前の灯』だと言ったのよ、そうしたら、その台詞をお返しするって……」
あゆらは右側に立つ、何も言わない志鬼を見上げた。
「……ねえ、志鬼」
「……俺は、あゆらにこの件から手を引けと言おうか、迷った、もう三日前からや。知らん方が幸せなこともある」
志鬼はあゆらに打ち明ける覚悟をしていた。それでも、苦しい気持ちは変わらない。
「どうして、そんなこと言うのよ、ねえ志鬼、教えてよ……私、あなたに憐まれたら、生きて行けないわ――」
あゆらはバカではない。もう、どんなことが起きているのか、あらかたの不穏を感じ取っていた。
あゆらにシャツの袖を引っ張られ、解答をせがまれた志鬼は、ついに重い口を開いた。
「売春クラブの元締めは…………岸本幸蔵。あゆらの父親や」
絶望すると目の前が真っ暗になると言う。
しかし、あゆらの目の前は、真っ白に色をなくした。
それは、今まで自分自身が信じてきたもの、自分自身を形成してきたすべてが吹き飛んだ瞬間だった。
それから幾分か経った頃、どこかぼんやりとしたあゆらの方が沈黙を破った。
「……帝くん、私と一連托生だと言っていたわ、お父様の名前も出して……さっき『あなたの人生は風前の灯』だと言ったのよ、そうしたら、その台詞をお返しするって……」
あゆらは右側に立つ、何も言わない志鬼を見上げた。
「……ねえ、志鬼」
「……俺は、あゆらにこの件から手を引けと言おうか、迷った、もう三日前からや。知らん方が幸せなこともある」
志鬼はあゆらに打ち明ける覚悟をしていた。それでも、苦しい気持ちは変わらない。
「どうして、そんなこと言うのよ、ねえ志鬼、教えてよ……私、あなたに憐まれたら、生きて行けないわ――」
あゆらはバカではない。もう、どんなことが起きているのか、あらかたの不穏を感じ取っていた。
あゆらにシャツの袖を引っ張られ、解答をせがまれた志鬼は、ついに重い口を開いた。
「売春クラブの元締めは…………岸本幸蔵。あゆらの父親や」
絶望すると目の前が真っ暗になると言う。
しかし、あゆらの目の前は、真っ白に色をなくした。
それは、今まで自分自身が信じてきたもの、自分自身を形成してきたすべてが吹き飛んだ瞬間だった。
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