金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第五章、真実と情熱

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「あゆら!!」

 衝撃の場面に自失していた志鬼だったが、あゆらの危機を察して我に返ると瞬足で彼女の後ろに身体を入れた。

 志鬼が防波堤になり、寸前のところであゆらが壁に激突するのはまぬがれた。
 しかし、重大なのはそこではない。

「あゆらっ、大丈夫か!? あゆ……」

 あゆらは力なく床に膝をつき、震える手で必死に口を擦り、拭っていた。

 志鬼があれほど時間をかけ、それでも大事に、宝物のように優しく触れるだけのキスを一度しただけなのに。
 清志郎はそんなことはおかまいなしに、欲望のまま深く唇を押しつけてきたのだ。
 しかもそれを愛しい志鬼に見られたことは、あゆらにとって物理的な攻撃を受けるよりずっと深い傷になった。

「……見ないで……志鬼……ッ」

 ぱたぱた、と、俯くあゆらからこぼれ落ちる雨が床を濡らした時、志鬼の中で張り詰めていた糸がプツリ、切れる音がした。

「…………コロス」

 地の果てから這い出すような重い声に、あゆらは思わず顔を上げた。
 すると、すぐ側にいたのは、あゆらが知っているいつもの志鬼ではなかった。
 強烈なまでにつり上がった眉と目、深く刻まれた皺に食いしばられた歯は、まさに逆鱗に触れた鬼神のごとく。
 力の使いどころを心得ている志鬼が、初めて理性を飛ばし怒りに囚われる様を前にしたあゆらは、驚きのあまり目を見張った。
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