金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第四章、愛は指先にのせて。

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 生まれながらにして“おとこ”であることを重んじ教育されてきた志鬼は、もちろん「可愛い」などと言われたことがない。
 それを不意打ちに大好きな女の子に連発され、恥ずかしいやら嬉しいやら、身体中がむず痒くて仕方がなかった。
 それも上目遣いで悪戯っ子のように楽しげに攻めるものだから、志鬼はあゆらの小悪魔的な魅力にますます落ちてゆく。骨の髄までしゃぶり尽くされたいと願うほどに。

「……なあなあ、あゆら……なんかもう俺、たまらんねんけど……ちょっとだけ口くっつけてもええ?」
「どうぞ」
「嫌ならええんやけど――ってええんか!?」
「しっ! 声が大きいわよ」
「わ、悪い! つい嬉しさのあまり……」

 清志郎には公衆の面前で指一本触れさせないと誓わせたのに、自分には二つ返事で唇を許してくれるのかと思った志鬼は歓喜に震えた。
 二人はしばし無言で見つめ合うと、目を閉じ、あゆらは背伸びをして、志鬼は背を屈め、顔を寄せた。
 そうして初めて唇と唇が重なった――
 かと思いきや、あゆらが温もりを感じたのは鼻の頭だった。
 予想と違った行為に、あゆらは鼻先に手を添え首を傾げた。

「……口にしないの?」
「……いや、したつもりなんやけど」

 絶妙な間が流れたのち、志鬼の台詞の意味を汲んだあゆらは笑いが込み上げてしまった。
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