金色の庭を越えて。

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
150 / 228
第四章、愛は指先にのせて。

27

しおりを挟む
「なんなん、あゆら、実は俺のことめっちゃ好きなん……でも俺やで、そんなことあり得る……なんのミラクルや」

 嫌われてはいないと思ってはいたが、どちらかといえば姫と従者のような関係に近いのかと勘違いしていた志鬼は、先ほどのあゆらの愛のメッセージに完全にノックアウトされていた。

 普段は飄々ひょうひょうとして目的のためには嘘をつくことも厭わない老獪ろうかいなこの男は、あゆらの前ではあまりに素直な“普通”の少年だった。
 周りの汚れた水に染まることなく、利用する狡猾こうかつさを持ちながら芯の部分は澄んでいる。あゆらが惚れ込んだ野間口志鬼という人間は、そういう男だった。
 なんと愛おしいのだろう。
 彼のことだけ考えて生きられたなら、どれほど幸せかとあゆらは思った。

「……この私が初めて慕った人なのだから、自信を持ちなさいよ」

 そう告げると、あゆらは勇気を出して志鬼の胸に抱きついた。
 初めてあゆらから触れられた志鬼は、自分でもおかしいと思うほどさらに顔を赤らめ動揺してしまった。

「何よ今更、志鬼からはもっとベタベタくっついてくるくせに」
「いやっ、自分から行くのは別に……あゆらから来られると、なんか、あかんな……」
「へえ、大きな身体をして可愛いところがあるじゃない」
「こんななりして純情とかイタすぎるやろ」
「そんなことないわ、可愛いわよ」
「か、勘弁してくれえ……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

8年間未来人石原くん。

七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。 「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」 と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず) これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

小麦姫と熊隊長 外伝

宇水涼麻
青春
「小麦姫は熊隊長に毎日プロポーズする」の小話です。 そちらを読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 たくさんのキャラクターが出てくる小説なので、少しずつ書いていきたいと思っています。

キミ feat. 花音 ~なりきるキミと乗っ取られたあたし

若奈ちさ
青春
このあたしがなんでカーストど底辺のキリコと入れ替わんなきゃならないの!? 憧れの陽向くんとキリコが幼なじみで声をかけてくれるのはうれしいけど、なんか嫉妬する! 陽向くんはもとに戻る方法を一緒に探してくれて…… なんとか自分に戻れたのに、こんどは男子の夕凪風太と入れ替わり!? 夕凪は女の子になりたかったと、訳のわからないこというし…… 女王様気取りの音無花音が、まったく立場の違うクラスメイトと入れ替わって奔走する。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

あの日は、晴れのち曇りの天気予報だった

平木明日香
青春
中学生の頃に両親を亡くし、高校を中退した小鳥遊みかんは、祖母と2人で実家の牧場を切り盛りしていた。 学生生活を捨て、生活のために働くことを決意したみかんだったが、次第に自分の将来について不安を感じるようになってしまう。 そんな折、とあることがきっかけで祖母と喧嘩した彼女は、小学生の頃に別れた幼馴染からの誘いで、上京することを決める。 幼馴染は彼女にとっての初恋の相手であり、もう二度会うことがないと思っていた「夢の中」の人だった。 沖縄に住んでいた彼女にとって、東京という街はそれほどまでに遠い場所だった。 会うためのお金も、時間も、子供だった2人にとっては、あまりにもぶ厚い「距離」だったのだ。 上京後、彼の紹介で大学の寮に上がり込んだ彼女は、幼馴染の夢である「カメラマン」の仕事のモデルになるため、ありのままの自分を探す日々を送る。 今を生きる人を撮りたい。 彼にそう言われ、将来の自分についてを考える日々が始まった。 未来のこと、やりたい仕事。 生きるべくして高校を中退した彼女だったが、「生きる」ということがどういうことかを、いつからか見失っていた。 上京して5年。 彼女の元に連絡が入る。 祖母が入院したという、親戚からの電話だった。

読書のすすめ

たかまちゆう
青春
図書委員である宮本さんのところへ、ある日クラスメイトの吉見さんが頼み事をしにきた。 学年一の秀才、羽村君に好かれるため、賢くなれそうな本を教えてほしい、と。 苦手なタイプの子だなと思いつつ、吉見さんの熱意に押されて応援し始める宮本さんだったが――。

処理中です...