金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第四章、愛は指先にのせて。

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 息を弾ませ、あゆらはホテルを出ると裏庭の方へ急いだ。
 こんな煌びやかな衣装でなりふりかまわず走るのは初めてだった。高いヒールのせいで足が痛んだが、そんなことはどうでもよかった。

 ホテルの裏側には小さな庭園があり、円になった花壇の中央にある噴水の音だけが流れている。
 あゆらは忙しなく頭を左右に動かし、辺りを見回した。
 するとようやく、ホテルの壁際に目立つ金髪を見つけた。

「志鬼!」

 いてよかった……と、あゆらは探していた相手の元へ駆け寄った。
 しかし、返事がない。
 志鬼は建物の陰に隠れるようにして、壁を背に立ち、片手で顔を覆っていた。

「こんなところにいたのね……志鬼? どうしたのよ?」
「……いや、今はちょっと」

 気まずそうにする志鬼を妙に思ったあゆらは、彼を追い詰めるようにすぐ側まで行った。

「ちょっとって、なあに? どうして顔を隠しているのよ、ねえ――」

 あゆらは思わず声を失った。
 観念したように手を外した志鬼の顔が、耳まで朱に染まっていたからだ。

「……顔、真っ赤だけど……?」
「そりゃあ赤くもなるやろ!? あ、あんなこと、されたらっ……」

 志鬼は口元を手の甲で隠し、瞳をあちらこちらに泳がせた。
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