金色の庭を越えて。

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
145 / 228
第四章、愛は指先にのせて。

22

しおりを挟む
 演奏が終わり、出席客たちの拍手に包まれた後、あゆらは化粧直しをしたいと口実を作り会場を出た。
 一番近くにあったお手洗いに駆け込み、胸を押さえると深く息を吐いた。
 ずいぶんな度胸を見せ、窮地を脱したあゆらは一人になりようやく緊張を解くことができた。
 心を落ち着かせてから洗面台で手を洗い、鏡に映った自身と向き合うと、あゆらは廊下に出た。
 するとすぐ前の壁を背もたれに立っている人物と目が合う。
 清志郎は穏やかに微笑みながら、あゆらに歩み寄って来た。
 一瞬身の危険を案じたあゆらだったが、すぐ側の会場では多数の客たちが会食を始めており、死角になる部分もないためこのまま話を受けて立つことにした。

「いやあ、すごいね、してやられたよ」
「なんのことかしら、私は円滑にことを進めだけよ」
「……やっぱりきみは他の子たちとは違う。きみだけが僕に相応しい。きみが嫁いで来てくれたなら、母さんもきっと帰って来てくれるはずだ」

 喜ばしそうに言う清志郎を、あゆらは奇妙に思った。

「……何を言っているの? あなたのお母様なら、一緒にパーティーにいらしていたじゃない」
「違う。僕の母親は皐月さつきただ一人だ」

 そう切り返した清志郎の顔は真剣そのものだった。
 ふと、あゆらは去年クラスが同じだった生徒に聞いたことを思い出した。
 清志郎の父は再婚しており、実母は彼が小さな頃に行方不明になり、未だ消息不明だということを。
 あゆらは清志郎と高校で知り合ったが、その生徒は幼稚園から一緒だったため詳しかったのだ。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,782pt お気に入り:3,699

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,398pt お気に入り:12,698

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:15,024pt お気に入り:2,083

どうやら私は竜騎士様の運命の番みたいです!!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:6,588

処理中です...