金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第四章、愛は指先にのせて。

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 しかしあゆらの反撃はこれにとどまらない。
 
「つい熱くなってしまい申し訳ございませんでした。驚かせてしまったお詫びと今日という日のお祝いのために、一曲弾かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もういい、お前は下が」
「ああ、ぜひあゆらさんのピアノを聴きたいな」
「わたくしもお聴きしたいですわ、あゆらさんはピアノの腕も一級品ですもの」
「な……」

 これ以上自由にさせては何をしでかすかわからないと案じた幸蔵はあゆらを退しりぞかせようとしたが、客たちの声により不可能となった。
 もはや観客たちは“岸本幸蔵の娘”としてではなく“岸本あゆら”という個人に魅せられていた。

「志鬼、聴いて行ってちょうだい」

 そろそろ退場するべきかとタイミングを見ていた志鬼は、あゆらにそう言われ、その場に残ることにした。
 清志郎のことは苗字に敬称までつけ呼んでいるのに対し、志鬼のことは名を呼び捨てている。二人がいかに親しい仲かは、もはや会場中の人間が知っただろう。

「お母様、お父様、帝くんもぜひ……最後までご静聴くださいませ」

 そう言ってあゆらは胸を張り、舞台の脇に置かれたグランドピアノまで歩くと、椅子に腰を据え、色白の指を鍵盤に添えた。

 美しい指先が滑らかに、ロマンティックで、少し寂しげな音楽を奏で始める。
 それを耳にした志鬼は、こう思った。
 
 ――俺でも聴いたことある曲や。

 ヴェートーベン作『エリーゼのために』。
 あゆらは教養がない志鬼にもわかるよう、難しい曲ではなくあえてポピュラーな曲を選んだ。
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