金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第四章、愛は指先にのせて。

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「どうしたの、そんなところにいないで、入っておいでよ」

 清志郎の呼びかけに、志鬼は苦い顔つきで会場の床を踏みしめた。

 あゆらの瞳孔が開く。
 予期せぬ事態が立て続けに起こり、混乱した意識の中、ただ志鬼を見ていることしかできなかった。

「彼には身の程を知ってもらわねばな」

 清志郎の隣にいる、幸蔵の低い声があゆらの耳に入った。
 
 志鬼に電話をしたのは、清志郎だった。
 志鬼は一人暮らしのため、連絡網に親ではなく自身の携帯番号を載せているのだ。
 場所のみ指定され、あゆらに関する大事な話があると誘い出された。
 悪い予感しかしなかったが、あゆらの件なら行くことに迷いのなかった志鬼は罠にかかるとわかっていながらここに来た。

「彼は野間口志鬼くんといって、あの有名な野間口組の組長の御子息なんですよ」

 清志郎の一言で、会場内がざわめく。
 あゆらは仰天し、斜め上にある清志郎を凝視した。

「社会勉強という名目で我が高に転入して来られたのですが、彼はずいぶんあゆらさんに懐いているようですので、ぜひ紹介させていただこうと思いまして、お呼びした次第です」

 ざわめきは一層大きくなる。
 至るところから「まあ、怖い」「あゆらさん大丈夫なの」などという囁き声が立つ。

 優雅な装いの紳士淑女の中、一人立ち尽くす志鬼の姿はいつもよりずっと小さく見え、あゆらの心臓は壊れそうなほど辛く切なく軋んだ。
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