金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第四章、愛は指先にのせて。

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 なんの脈絡もなく、杏奈に苦しげに訴えるような目でそんなことを言われたあゆらは、眉を潜めた。

「……お母様ったら、突然どうなさったの? 意味がわからないわ」
「あゆら」

 不意に、脳髄に響くような低く厳格な声が聞こえ、あゆらは身体を強張らせた。
 恐る恐る振り向いた左側の廊下には、頭をオールバックにした中肉中背の年配男性がスーツ姿で立っていた。あゆらは間違いなく母親似である。

「お父様……いらっしゃったので」
「今日はパーティーがある。今すぐ支度をするんだ」
「え?」

 あゆらの父、岸本幸蔵は娘の声に被せるように無慈悲な台詞を発した。

「あ、あの、お父様、今日は私、予定がありまして」
「不良じみた金髪の小僧との、か?」

 あゆらの背筋が凍った。
 杏奈は悲壮な面持ちで、俯いている。
 幸蔵は汚いものでも見るような侮蔑の目を、あゆらに向けていた。

 ――バレていたのだ。
 あゆらが志鬼と二人きりで会っていたことが。
 顔の広い政治家である幸蔵。その娘が街を出歩けば誰かの目に留まり、噂になることなど想像するに易かったのに、あゆらは志鬼との恋に夢中で、そこまで気が回らなかった。

「あ、あの、志鬼はお父様が思っているような人では」
「ほう、呼び捨てとはずいぶん親しい仲のようだな。遊ばれて傷物になるのが目に見えている」
「なっ……!? し、志鬼はそんなことはしません!」
「……お前はいつから私に意見できるほど偉くなったんだ」

 幸蔵のギョロリと濁った目があゆらを捕らえる。
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