金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第三章、汚れた大人たち

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 アリスに教えられた紳士用のお手洗いに入ったあゆらは、閉めたドアを背もたれに、一つ大きな息を吐いた。
 顔が熱い。どうしてああも、志鬼という男は真っ直ぐに感情をぶつけてくるのか。
 生い立ちから考えれば歪んでも仕方がないのではと思うのに、彼の性格は雨雲を突き抜ける一筋の光線のようだった。

 あゆらは誰もいないお手洗いで個室に入り用を足すと、鏡の前に立ち蛇口を捻った。
 とても綺麗とは言い難い薄汚れた場所に長居する気にもなれず、手を洗うとすぐに志鬼の元に帰ろうとドアを振り返る。
 すると、間近に立っていた人物とぶつかりそうになって、あゆらは反射的に身を引いた。

 音もなく、いつの間にか、あゆらの背後に立っていた者がいた。
 錆びた照明の下で、スーツ姿の痩せた中年男性はあゆらを見下ろし、不気味に目を細め、口角を上げていた。

「きみは、新しく入った子かな?」

 その台詞から、この売春クラブの会員だと判断したあゆらは焦りに速まる心音を落ち着かせながら答える。

「……わた……俺は、男で」
「ねえ、きみ、私と一晩付き合ってくれないかい?」

 男だと言ったはずなのに、聞こえなかったのだろうか? と思ったあゆらは、気持ち声を大きくして再度答える。この時はまだ、男ならば安全だと思っていたからだ。

「俺は、男です、から」
「うんうん、私はね、女の子のように綺麗な男の子が大好きなんだよ」

 あゆらは耳を疑った。
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