114 / 228
第三章、汚れた大人たち
35
しおりを挟む
「あ、でも他の売春クラブで働かされてるかもね。ここ以外にもいくつかあるし。ヘルプで行かされたことあるから何店か知ってるの」
「ほう、さすが物知りやな」
志鬼がその店の名前を聞き出そうとした時、アリスの目が妖しく光った。
「……お兄さん、話聞くの上手だね、あたし好きになっちゃいそう」
聞き捨てならない発言に、俯き加減を保っていたあゆらは思わず顔を上げアリスを見た。
「そらどうも」
「やっぱり男は包容力がなくちゃダメだよね、いくら外見着飾っても中身が伴ってなくちゃ意味ないよ。それにあたし、美形って苦手なんだよね、自分で自分のことかっこいいって思っちゃうイタイところがさあ。かと言ってブサイクは嫌だし……お兄さんくらいがちょうどいいよ、涼しい顔してるし、スタイルもいいしさあ。ねえ、あたしと付き合ってくれるならなんでも教えたげるよ?」
これにはあゆらはギョッとした。
まさか志鬼が、情報のために身売りのようなことをしてしまわないだろうか、と。
本心では「やめて!」と叫んでしまいたいあゆらだったが、今はそれが許される状況ではなかった。
「悪いけど……」
不安な中、志鬼の返事を待つしかできなかったあゆらの手が、温かくなる。
――志鬼に手を、握られていた。
「俺、好きな子おるから。付き合うのは無理」
テーブルの下、誰にも見えないよう密やかに、あゆらが膝に揃えた両手を、志鬼の右手が優しく包み込んでいた。
「ほう、さすが物知りやな」
志鬼がその店の名前を聞き出そうとした時、アリスの目が妖しく光った。
「……お兄さん、話聞くの上手だね、あたし好きになっちゃいそう」
聞き捨てならない発言に、俯き加減を保っていたあゆらは思わず顔を上げアリスを見た。
「そらどうも」
「やっぱり男は包容力がなくちゃダメだよね、いくら外見着飾っても中身が伴ってなくちゃ意味ないよ。それにあたし、美形って苦手なんだよね、自分で自分のことかっこいいって思っちゃうイタイところがさあ。かと言ってブサイクは嫌だし……お兄さんくらいがちょうどいいよ、涼しい顔してるし、スタイルもいいしさあ。ねえ、あたしと付き合ってくれるならなんでも教えたげるよ?」
これにはあゆらはギョッとした。
まさか志鬼が、情報のために身売りのようなことをしてしまわないだろうか、と。
本心では「やめて!」と叫んでしまいたいあゆらだったが、今はそれが許される状況ではなかった。
「悪いけど……」
不安な中、志鬼の返事を待つしかできなかったあゆらの手が、温かくなる。
――志鬼に手を、握られていた。
「俺、好きな子おるから。付き合うのは無理」
テーブルの下、誰にも見えないよう密やかに、あゆらが膝に揃えた両手を、志鬼の右手が優しく包み込んでいた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
8年間未来人石原くん。
七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。
「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」
と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず)
これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。

小麦姫と熊隊長 外伝
宇水涼麻
青春
「小麦姫は熊隊長に毎日プロポーズする」の小話です。
そちらを読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
たくさんのキャラクターが出てくる小説なので、少しずつ書いていきたいと思っています。

キミ feat. 花音 ~なりきるキミと乗っ取られたあたし
若奈ちさ
青春
このあたしがなんでカーストど底辺のキリコと入れ替わんなきゃならないの!?
憧れの陽向くんとキリコが幼なじみで声をかけてくれるのはうれしいけど、なんか嫉妬する!
陽向くんはもとに戻る方法を一緒に探してくれて……
なんとか自分に戻れたのに、こんどは男子の夕凪風太と入れ替わり!?
夕凪は女の子になりたかったと、訳のわからないこというし……
女王様気取りの音無花音が、まったく立場の違うクラスメイトと入れ替わって奔走する。
あの日は、晴れのち曇りの天気予報だった
平木明日香
青春
中学生の頃に両親を亡くし、高校を中退した小鳥遊みかんは、祖母と2人で実家の牧場を切り盛りしていた。
学生生活を捨て、生活のために働くことを決意したみかんだったが、次第に自分の将来について不安を感じるようになってしまう。
そんな折、とあることがきっかけで祖母と喧嘩した彼女は、小学生の頃に別れた幼馴染からの誘いで、上京することを決める。
幼馴染は彼女にとっての初恋の相手であり、もう二度会うことがないと思っていた「夢の中」の人だった。
沖縄に住んでいた彼女にとって、東京という街はそれほどまでに遠い場所だった。
会うためのお金も、時間も、子供だった2人にとっては、あまりにもぶ厚い「距離」だったのだ。
上京後、彼の紹介で大学の寮に上がり込んだ彼女は、幼馴染の夢である「カメラマン」の仕事のモデルになるため、ありのままの自分を探す日々を送る。
今を生きる人を撮りたい。
彼にそう言われ、将来の自分についてを考える日々が始まった。
未来のこと、やりたい仕事。
生きるべくして高校を中退した彼女だったが、「生きる」ということがどういうことかを、いつからか見失っていた。
上京して5年。
彼女の元に連絡が入る。
祖母が入院したという、親戚からの電話だった。

読書のすすめ
たかまちゆう
青春
図書委員である宮本さんのところへ、ある日クラスメイトの吉見さんが頼み事をしにきた。
学年一の秀才、羽村君に好かれるため、賢くなれそうな本を教えてほしい、と。
苦手なタイプの子だなと思いつつ、吉見さんの熱意に押されて応援し始める宮本さんだったが――。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる