金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第三章、汚れた大人たち

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「なーんか違うねんよなあ……」

 あれから志鬼が買って来た洋服に着替えたあゆらは、夜の街に繰り出していた。
 志鬼はフードのついた緑色に迷彩柄のパーカー、身体のラインがわかる茶系のジーンズを着用していた。
 そして志鬼の隣を歩くあゆらは、同じデザインの色違いを身につけ、お団子にした長い髪をツバのある帽子の中に押し込み隠していた。黒いサングラスで顔はわからず、服装もとても良家のお嬢様には見えない……はずなのだが。
 
「もうちょい猫背にしてみ? 足ももうちょっと開いて、こう、だらしない感じに」
「……こう?」
「全然できてないやん、なんでそんな綺麗に歩くん!?」

 志鬼が「何か違う」と感じるのは、カジュアルな服装に反したあゆらの立ち振る舞いである。
 生まれた時から厳しく礼儀作法を教え込まれてきたあゆらには、上品さが染みついていた。頭を天から引き上げられているような背筋を伸ばした姿勢に、ガニ股など無縁のきちんと揃えられた足、適度な歩幅。
 いくら志鬼が不良ウォーキングを伝授しようとも、無駄だった。

「その育ちのよさ消して」
「う……そう言われても、自分ではしているつもりなのよ」
「小さい頃から刷り込まれたものは抜けんよなあ……しゃあないから、もうあゆらは俺の後ろにおって、で、女の子ってバレるから極力しゃべらんように」
「わかったわ」
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