金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第三章、汚れた大人たち

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「……帝くんは、女の子たちをきっと、メスで脅しただけではないわよね」
「そうやな。あいつ無駄に綺麗な顔してるから、女も寄って来るんやろ。家にでも誘い込んで……こんなこと言いたくないけど、裸の写真でも撮ってそれをネットで拡散させるとでも言えば、大抵の女は言うこと聞くやろうからな」

 大人の女性でもそんなことは絶望的だろう。未成熟な少女たちならなおのことだ。親にも相談できず、清志郎の言いなりになるしかなかったのだろう。

「美鈴がかばった友達が、転校したって言ってたわ。その子はもしかしたら、親に打ち明けて逃げたのかもしれない」
「そのタイミングの転校なら可能性は高いな」
「でも、どうして訴えなかったのかしら? そこで止めていたら、美鈴は……」

 あゆらの言葉を予見した志鬼は静かに首を横に振った。

「性的な被害を訴えるには相当な勇気が必要や。裁判をすれば世間に知られる。ただでさえ辛いことを何回も思い出して証言せなあかんやろうし、周りからは『そういうことをされた女』っていうレッテルを貼られる。だから公にせずに示談に応じるか、泣き寝入りするパターンがほとんどやと思うで。将来ある若い娘なら親もそっちを選ぶやろうしな」
「そん、な……」

 そこまで考えが及ばなかったあゆらにとって、志鬼の話は衝撃的だった。
 被害に遭っているのに、訴えればまた自分自身を傷つけることになる。故に黙って忘れるしかなくなり、それが加害者を増長させ、負の連鎖を引き起こす。
 決して一筋縄で解決しないのが性被害の闇であった。
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