66 / 228
第二章、騎士と王子
15
しおりを挟む
萩原家を出たあゆらは志鬼が待つアパートの入り口に向かった。
しかし、壁から一つ突き出ているはずの頭が見えない。
不思議に感じたあゆらは訝しげな表情で歩み寄ると、壁の外側に顔を覗かせた。
すると下から驚きの声がする。
「うわっ!? お、思ったより早かったな」
「何して……」
あゆらが視線を落とした先には、ヤンキー座りで猫じゃらしを振る志鬼がいた。
そしてそれに夢中でじゃれつく白い子猫。
「いやっ、なんか寄って来たからこう、しっしって追い払おうとしてたんや!」
「思いっきり猫じゃらしで遊んであげてたわよね……?」
「しーっ! そういうんは俺のイメージが崩れるから!」
「誰に言ってるのよ」
「はあ……この目はあかんよなあ、反則やわ。なんか足も悪そうやし」
ナゥナゥと、か細い声で鳴きながら志鬼の足に擦り寄る子猫は、右足が短く、歩き方がぎこちなかった。
思わず同情したあゆらも膝を畳んで子猫をよく見た。
「本当ね、怪我をしたわけではなさそうだし、生まれつきかしら」
「足が変やから捨てられたんやろな」
「そんな……」
「金儲け目当てで品種改良しまくってる悪徳ブリーダーもおるし」
「そう、なのね……志鬼はなんでもよく知っているわね」
「知らん方が幸せな暗い部分だけな」
そう言うと志鬼は子猫を抱っこしながら立ち上がり、なんと自分の胸元に入れた。黒のアンダーシャツから両手と顔だけ出した子猫は嬉しそうに、ナゥ、と鳴いた。
あゆらが立ち上がると、ちょうど子猫と同じ目線になった。
しかし、壁から一つ突き出ているはずの頭が見えない。
不思議に感じたあゆらは訝しげな表情で歩み寄ると、壁の外側に顔を覗かせた。
すると下から驚きの声がする。
「うわっ!? お、思ったより早かったな」
「何して……」
あゆらが視線を落とした先には、ヤンキー座りで猫じゃらしを振る志鬼がいた。
そしてそれに夢中でじゃれつく白い子猫。
「いやっ、なんか寄って来たからこう、しっしって追い払おうとしてたんや!」
「思いっきり猫じゃらしで遊んであげてたわよね……?」
「しーっ! そういうんは俺のイメージが崩れるから!」
「誰に言ってるのよ」
「はあ……この目はあかんよなあ、反則やわ。なんか足も悪そうやし」
ナゥナゥと、か細い声で鳴きながら志鬼の足に擦り寄る子猫は、右足が短く、歩き方がぎこちなかった。
思わず同情したあゆらも膝を畳んで子猫をよく見た。
「本当ね、怪我をしたわけではなさそうだし、生まれつきかしら」
「足が変やから捨てられたんやろな」
「そんな……」
「金儲け目当てで品種改良しまくってる悪徳ブリーダーもおるし」
「そう、なのね……志鬼はなんでもよく知っているわね」
「知らん方が幸せな暗い部分だけな」
そう言うと志鬼は子猫を抱っこしながら立ち上がり、なんと自分の胸元に入れた。黒のアンダーシャツから両手と顔だけ出した子猫は嬉しそうに、ナゥ、と鳴いた。
あゆらが立ち上がると、ちょうど子猫と同じ目線になった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
霊感不動産・グッドバイの無特記物件怪奇レポート
竹原 穂
ホラー
◾️あらすじ
不動産会社「グッドバイ」の新人社員である朝前夕斗(あさまえ ゆうと)は、壊滅的な営業不振のために勤めだして半年も経たないうちに辺境の遺志留(いしどめ)支店に飛ばされてしまう。
所長・里見大数(さとみ ひろかず)と二人きりの遺志留支店は、特に事件事故が起きたわけではないのに何故か借り手のつかないワケあり物件(通称:『無特記物件』)ばかり取り扱う特殊霊能支社だった!
原因を調査するのが主な業務だと聞かされるが、所長の霊感はほとんどない上に朝前は取り憑かれるだけしか能がないポンコツっぷり。
凸凹コンビならぬ凹凹コンビが挑む、あなたのお部屋で起こるかもしれないホラー!
事件なき怪奇現象の謎を暴け!!
【第三回ホラー・ミステリー大賞】で特別賞をいただきました!
ありがとうございました。
■登場人物
朝前夕斗(あさまえ ゆうと)
不動産会社「グッドバイ」の新人社員。
壊滅的な営業成績不振のために里見のいる遺志留支店に飛ばされた。 無自覚にいろんなものを引きつけてしまうが、なにもできないぽんこつ霊感体質。
里見大数(さとみ ひろかず)
グッドバイ遺志留支社の所長。
霊能力があるが、力はかなり弱い。
煙草とお酒とAV鑑賞が好き。
番場怜子(ばんば れいこ)
大手不動産会社水和不動産の社員。
優れた霊感を持つ。
里見とは幼馴染。

彼の記憶に僕は居ない
あさみ
青春
大親友だった奏太と幸大がある日交通事故にあった、奏太がトラックにぶつかりそうなのを幸大が背中を押し奏太を助けとうとしたが奏太は足を引かれ、幸大はまともにトラックの衝突を正面からくらったので記憶が無くなってしまった、その記憶を思い出させようと奏太、しかし、本当は・・・

見上げた青に永遠を誓う~王子様はその瞳に甘く残酷な秘密を宿す~
結城ひなた
青春
高校のクラスメートの亜美と怜は、とある事情で恋人のふりをすることになる。
過去のとある経験がトラウマとなり人に対して壁を作ってしまう亜美だったが、真っ直ぐで夢に向かってひたむきに頑張る怜の姿を見て、徐々に惹かれ心を開いていく。
そして、紆余曲折を経てふたりは本当の恋人同士になる。だが、ふたりで出かけた先で交通事故に遭ってしまい、目を覚ますとなにか違和感があって……。
二重どんでん返しありの甘く切ない青春タイムリープストーリー。

人魚のカケラ
初瀬 叶
青春
あの娘は俺に言ったんだ
『もし私がいなくなっても、君は……君だけには覚えていて欲しいな』
父親と母親が離婚するらしい。
俺は父親、弟は母親が引き取るんだと。……俺等の気持ちなんてのは無視だ。
そんな中、弟が入院した。母親はまだ小学生の弟にかかりきり、父親は仕事で海外出張。
父親に『ばあちゃんの所に行け』と命令された俺は田舎の町で一ヶ月を過ごす事になる。
俺はあの夏を忘れる事はないだろう。君に出会えたあの夏を。
※設定は相変わらずふんわりです。ご了承下さい。
※青春ボカロカップにエントリーしております。

小麦姫と熊隊長 外伝
宇水涼麻
青春
「小麦姫は熊隊長に毎日プロポーズする」の小話です。
そちらを読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
たくさんのキャラクターが出てくる小説なので、少しずつ書いていきたいと思っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる