金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第一章、発端

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 突然始まった脱衣シーンに、あゆらはキョトンとした後急に焦って手を激しく動かした。

「ちょ、ちょっと、いきなり何するのよ!?」
「百聞は一見にしかず言うやろ」

 そう言って志鬼はシャツの下に着ていた真っ黒なインナーを一気に脱ぎ払った。

 その瞬間、あゆらは言葉を切り、一度に動きを止めた。
 それもそのはず、あゆらは生まれて初めて、人体に絵が施されているのを見たのだから。
 
 背中一面を埋め尽くす立体感極まる鬼の顔。悲しみにも怒りにも似た形容し難い表情のそれからは、対になった長い角が肩に向かって伸びており、舞い散る桜の花弁はなびらは手首の付近まで及んでいた。
 まるで海の中を揺蕩たゆたうような動きを見せる生きた彫刻は、見る者に恐怖以外の何かを訴える力があった。

「野間口組七代目、長男、野間口志鬼とは俺のことや」

 あゆらはしばらく声にならず、ただ志鬼の刺青を見つめていた。

「……まさか知らんわけちゃうやろ?」

 なかなか反応を示さないあゆらに、志鬼はぐるんと首だけを向けた。

「……し、知ってるわよ、それくらい」

 日本に住んでいれば知らない者はいない、最も歴史が深く、強大な極道、野間口組。
 驚きのあまり返事が遅れただけで、あゆらも当然名前や噂を耳にしたことがあった。
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