32 / 228
第一章、発端
32
しおりを挟む
「あなたよ! あなたがやったに決まっているわ! 美鈴は自分の命を粗末にするような子じゃない! 私は見たのだから、あなたが女の子をターゲットにいじめよりひどい行為をしていたことを! よくもそんな平然としていられるわね!? 恥を知りなさいよ!!」
あゆらの怒声は体育館から外へも響き渡った。
それを聞いた生徒や教師たちは一瞬驚きの表情を見せたものの、すぐに冷静さを取り戻し、互いに顔を見合わせたり、ため息をついたりした。
騒ぎになればどれほどマシだっただろう。問題は、誰も真剣にこの現実を探ろうとしないことだった。
「あゆらさん、おかわいそうに、萩原さんが亡くなったのがよほどお辛かったのですわね」
「確か幼馴染だとおっしゃっていましたものね、気が動転してしまうのも無理ないですわ」
あゆらを両脇から止めていたみどりと京子が、聞き分けのない子供を宥めるかのように言った。
「ち、違うわよ、私は嘘なんてついてないわ、みんな、聞いて、本当に」
「いい加減にしてくれよ、下手したら名誉毀損で訴えられるぞ」
「自分が辛いからってなんの罪もない帝くんに八つ当たりするだなんて、許されませんわよ」
「いいんだ、みんな」
あゆらを責め立てる声を遮ったのは、清志郎本人だった。彼はいつもと変わらぬ笑顔をあゆらに投げかけた。
「僕を罵倒して岸本さんの気持ちが少しでも和らぐなら、喜んで」
岸本あゆら、十六歳――本物の悪人は、善人の皮を何百枚も被っていると知った。
あゆらの怒声は体育館から外へも響き渡った。
それを聞いた生徒や教師たちは一瞬驚きの表情を見せたものの、すぐに冷静さを取り戻し、互いに顔を見合わせたり、ため息をついたりした。
騒ぎになればどれほどマシだっただろう。問題は、誰も真剣にこの現実を探ろうとしないことだった。
「あゆらさん、おかわいそうに、萩原さんが亡くなったのがよほどお辛かったのですわね」
「確か幼馴染だとおっしゃっていましたものね、気が動転してしまうのも無理ないですわ」
あゆらを両脇から止めていたみどりと京子が、聞き分けのない子供を宥めるかのように言った。
「ち、違うわよ、私は嘘なんてついてないわ、みんな、聞いて、本当に」
「いい加減にしてくれよ、下手したら名誉毀損で訴えられるぞ」
「自分が辛いからってなんの罪もない帝くんに八つ当たりするだなんて、許されませんわよ」
「いいんだ、みんな」
あゆらを責め立てる声を遮ったのは、清志郎本人だった。彼はいつもと変わらぬ笑顔をあゆらに投げかけた。
「僕を罵倒して岸本さんの気持ちが少しでも和らぐなら、喜んで」
岸本あゆら、十六歳――本物の悪人は、善人の皮を何百枚も被っていると知った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
8年間未来人石原くん。
七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。
「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」
と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず)
これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。
霊感不動産・グッドバイの無特記物件怪奇レポート
竹原 穂
ホラー
◾️あらすじ
不動産会社「グッドバイ」の新人社員である朝前夕斗(あさまえ ゆうと)は、壊滅的な営業不振のために勤めだして半年も経たないうちに辺境の遺志留(いしどめ)支店に飛ばされてしまう。
所長・里見大数(さとみ ひろかず)と二人きりの遺志留支店は、特に事件事故が起きたわけではないのに何故か借り手のつかないワケあり物件(通称:『無特記物件』)ばかり取り扱う特殊霊能支社だった!
原因を調査するのが主な業務だと聞かされるが、所長の霊感はほとんどない上に朝前は取り憑かれるだけしか能がないポンコツっぷり。
凸凹コンビならぬ凹凹コンビが挑む、あなたのお部屋で起こるかもしれないホラー!
事件なき怪奇現象の謎を暴け!!
【第三回ホラー・ミステリー大賞】で特別賞をいただきました!
ありがとうございました。
■登場人物
朝前夕斗(あさまえ ゆうと)
不動産会社「グッドバイ」の新人社員。
壊滅的な営業成績不振のために里見のいる遺志留支店に飛ばされた。 無自覚にいろんなものを引きつけてしまうが、なにもできないぽんこつ霊感体質。
里見大数(さとみ ひろかず)
グッドバイ遺志留支社の所長。
霊能力があるが、力はかなり弱い。
煙草とお酒とAV鑑賞が好き。
番場怜子(ばんば れいこ)
大手不動産会社水和不動産の社員。
優れた霊感を持つ。
里見とは幼馴染。

彼の記憶に僕は居ない
あさみ
青春
大親友だった奏太と幸大がある日交通事故にあった、奏太がトラックにぶつかりそうなのを幸大が背中を押し奏太を助けとうとしたが奏太は足を引かれ、幸大はまともにトラックの衝突を正面からくらったので記憶が無くなってしまった、その記憶を思い出させようと奏太、しかし、本当は・・・

見上げた青に永遠を誓う~王子様はその瞳に甘く残酷な秘密を宿す~
結城ひなた
青春
高校のクラスメートの亜美と怜は、とある事情で恋人のふりをすることになる。
過去のとある経験がトラウマとなり人に対して壁を作ってしまう亜美だったが、真っ直ぐで夢に向かってひたむきに頑張る怜の姿を見て、徐々に惹かれ心を開いていく。
そして、紆余曲折を経てふたりは本当の恋人同士になる。だが、ふたりで出かけた先で交通事故に遭ってしまい、目を覚ますとなにか違和感があって……。
二重どんでん返しありの甘く切ない青春タイムリープストーリー。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜
青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。
彼には美少女の幼馴染がいる。
それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。
学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。
これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。
毎日更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる