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第一章、発端
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その質問に黙り込む美鈴を見て、あゆらはきっとその通りなのだと思った。
「帝清志郎に関わっちゃいけない、どれだけひどい目に遭うか知っているから、絶対にあゆらにだけは同じ思いをさせたくないから……だから、これ以上、何もしないで」
「でもっ、そんな、美鈴がひどい目に遭っているのを知っていて、黙って見過ごすなんてできないわよ!」
涙目になりながら食い下がるあゆらに、美鈴は歓喜に近い感情に胸を熱くさせ、心からの微笑みを見せた。
「ありがとう、あゆら……あたし、あゆらがそんな風に、あたしのことを心配して、助けようとがんばってくれただけで、すっごく、嬉しいよ」
「努力なんて成果が出なければ無意味よ、私はまだ何もできていないわ、お礼なんてやめて」
「ううん、無意味なんかじゃない。帝くんだっていつまでもつまらないおもちゃに興味はないはず、もう少し、がんばってみるよ。あゆらが勇気をくれたんだもん、あたし……負けないから」
背の低い美鈴は、あゆらを上目遣いに覗くようにして力強く言った。
美鈴は昔からがんばり屋だった。親の事業が失敗した時も弱音を吐かず、いつも周りに気を配って、自分よりも他人を優先させてしまう。
それが彼女の長所であり、わがままであるあゆらにとって尊敬に値する人格者だったが――。
今回ばかりはがんばらなくていい。転校するか、学校をやめたって生きて行けるのだから、取り返しがつかなくなる前に、早く逃げた方がいい。そう言いたかった。
しかしそれは彼女の意思を削いでしまうような気もして、結局は口にできなかった。
「……わかったわ、美鈴、あなたがそう言うなら」
あゆらは翌朝、この時の判断を死ぬほど後悔することとなる。
「帝清志郎に関わっちゃいけない、どれだけひどい目に遭うか知っているから、絶対にあゆらにだけは同じ思いをさせたくないから……だから、これ以上、何もしないで」
「でもっ、そんな、美鈴がひどい目に遭っているのを知っていて、黙って見過ごすなんてできないわよ!」
涙目になりながら食い下がるあゆらに、美鈴は歓喜に近い感情に胸を熱くさせ、心からの微笑みを見せた。
「ありがとう、あゆら……あたし、あゆらがそんな風に、あたしのことを心配して、助けようとがんばってくれただけで、すっごく、嬉しいよ」
「努力なんて成果が出なければ無意味よ、私はまだ何もできていないわ、お礼なんてやめて」
「ううん、無意味なんかじゃない。帝くんだっていつまでもつまらないおもちゃに興味はないはず、もう少し、がんばってみるよ。あゆらが勇気をくれたんだもん、あたし……負けないから」
背の低い美鈴は、あゆらを上目遣いに覗くようにして力強く言った。
美鈴は昔からがんばり屋だった。親の事業が失敗した時も弱音を吐かず、いつも周りに気を配って、自分よりも他人を優先させてしまう。
それが彼女の長所であり、わがままであるあゆらにとって尊敬に値する人格者だったが――。
今回ばかりはがんばらなくていい。転校するか、学校をやめたって生きて行けるのだから、取り返しがつかなくなる前に、早く逃げた方がいい。そう言いたかった。
しかしそれは彼女の意思を削いでしまうような気もして、結局は口にできなかった。
「……わかったわ、美鈴、あなたがそう言うなら」
あゆらは翌朝、この時の判断を死ぬほど後悔することとなる。
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