金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第一章、発端

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 振り返ると、背後に立っていたのはスーツ姿に薄毛で恰幅かっぷくのいい中年男性だった。
 
「校長先生……」
「岸本さん」
「は、はい!」

 話の一端を聞いていたらしい、学校長は、にこりと笑い信じ難いことを口にした。

「忘れましょう」
「……え?」
「きみは何も見ていないし、今日何も話さなかった。それがみんなのためになる」

 ――どういうことなのか?
 あゆらは意味がわからず、ただ見開いた瞳に校長を映していた。

「こんな嘘をついたことが校内中の噂になれば、困るのは岸本さんでしょう? 偉大なお父上にもご迷惑をかけることになるでしょうから、ねぇ? わかりますよね、きみは賢いのだから」

 歪んだ薄笑いを浮かべる校長と、それに同調するように頷く女教師。
 ようやく事態を理解したあゆらは、張りついた唇を微かに動かし、頭を下げた。

「……わかり、まし、た……」

 感情の籠らない空気のような声を漏らし、あゆらは自失の中、職員室を後にした。
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