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第一章、発端
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一人で使うには広すぎる部屋は、結婚式場のように壁や床、カーテンや寝具までも白い。
あゆらはお姫様が使うようなドレッサーの椅子に座ると、お風呂上がりでまだ湿り気を帯びた髪を櫛で梳かした。
あのように頼りない母に、今日起きたことを話せるはずがない。かと言って家庭を顧みない父に相談しても、真剣に聞いてくれるとは思えなかった。
政界では偉人だと有名な父である岸本幸蔵は、家では別人のように冷徹だった。
しかしあゆらは気持ちを奮い立たせ、幸蔵に電話をかける決心をした。
「なんでもすぐにあきらめてしまうのは私の悪い癖だわ……やってみないとわからないじゃない」
顔の広い幸蔵ならば、清志郎の父とも知り合いのはずである。父親づてに、何かうまく、清志郎にあのいじめのような行為をやめさせることはできないだろうかと、あゆらは考えたのだ。
とにかく美鈴のためにできることはなんでもしようと思っていた。
あゆらはスマートフォンを握りしめると、幸蔵に電話をかけた。最後に会ったのはいつだっただろうか? そんなことも思い出せない相手だった。
五回のコール音を経て、彼は電話口に出た。
「あっ……もしもし、お父様? あの、あゆらですが」
緊張で手に汗を滲ませながら、あゆらは早口で言った。しかし、電話の向こう側から聞こえる声は、やはり冷たかった。
『一体なんの用だ』
「ご、ごめんなさい、お忙しいところ……少し、相談したいことが」
『そんなことよりあゆら』
「は、はい、なんでしょう?」
『この前の成績はなんだ? 学年では一位になれと言いつけていたはずだが?』
あゆらはお姫様が使うようなドレッサーの椅子に座ると、お風呂上がりでまだ湿り気を帯びた髪を櫛で梳かした。
あのように頼りない母に、今日起きたことを話せるはずがない。かと言って家庭を顧みない父に相談しても、真剣に聞いてくれるとは思えなかった。
政界では偉人だと有名な父である岸本幸蔵は、家では別人のように冷徹だった。
しかしあゆらは気持ちを奮い立たせ、幸蔵に電話をかける決心をした。
「なんでもすぐにあきらめてしまうのは私の悪い癖だわ……やってみないとわからないじゃない」
顔の広い幸蔵ならば、清志郎の父とも知り合いのはずである。父親づてに、何かうまく、清志郎にあのいじめのような行為をやめさせることはできないだろうかと、あゆらは考えたのだ。
とにかく美鈴のためにできることはなんでもしようと思っていた。
あゆらはスマートフォンを握りしめると、幸蔵に電話をかけた。最後に会ったのはいつだっただろうか? そんなことも思い出せない相手だった。
五回のコール音を経て、彼は電話口に出た。
「あっ……もしもし、お父様? あの、あゆらですが」
緊張で手に汗を滲ませながら、あゆらは早口で言った。しかし、電話の向こう側から聞こえる声は、やはり冷たかった。
『一体なんの用だ』
「ご、ごめんなさい、お忙しいところ……少し、相談したいことが」
『そんなことよりあゆら』
「は、はい、なんでしょう?」
『この前の成績はなんだ? 学年では一位になれと言いつけていたはずだが?』
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