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導きの時

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「ありがとう、ちづちゃん……僕を思い出してくれて、僕を選んでくれて」

 飴色の宝石に、雨粒が降りかかるように、向かい合った彼の瞳は、やや潤んでひどく美しかった。

「……猫宮さん、泣いてるんですか?」
「……泣いてないよ?」
「瞳が潤んでるのは、泣いてるうちに入りますよ」
「わあ、これは一本取られたなぁ」
 
 過ぎ去りしいつか、聞き覚えのある台詞を呼び起こすと、猫宮さんは困ったように可愛らしく笑ってくれた。

 輪廻から外れ、神に背いたとしても、私は後悔なんてしない。
 思い出せてよかった。
 あなたを一人にしなくてよかった。
 人を導きながら、自身が最も解放されたがっていた。それを隠して、気の遠くなる日々を強がって過ごしてきた。
 誰よりも、一番迷子のあなたを。

「さあ、行こうか。牛坐たちも待ち兼ねてるよ」
「ええ、牛坐さんが?」

 味気ない装束は黒の着物に変わり、その布地には置き物と同じ鶴が羽ばたいていた。
 私の長い黒髪をかんざしで留める、溢れるほどの笑顔の猫宮さんと手を取り合う。
 猫宮さんの心の深いところは、こんなにも澄み渡っていたんだ。
 三途の川とは別の方角へ。
 花やいだ道を行く。
 いつしか霧は晴れていた。
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