201 / 206
導きの時
15
しおりを挟む
ほっそりとした猫背を前に、しずしずと階段を上がる。
ちょうどお昼休み、いつもは藤本さんに誘われて屋上に出るけれど、今日は違う。
まだ誰もいない開けた場所に、私と笹原くんの二人だけ。
屋上のど真ん中に立ち止まった笹原くんは、すっと背を伸ばすと、勢いよく後ろを振り返った。
この数ヶ月でずいぶん様変わりした。
入社当時につけていた、トレードマークとも言えるメガネをコンタクトにし、スーツの趣味もおしゃれになった。
仕事もがんばっていて、最近任される業務も増えた。
これほど垢抜けたのは、彼が恋をしているからだ。
そんな噂はちらほら耳にしていた。
確かに以前、新しい扉が開いたとか、私のためにカッコよくなるとか言っていた気がするけれど――。
「か、課長っ……いえ、す、隅田川、千鶴さんっ……」
ぎゅっと拳を握りしめて、勇気を絞り出すように、彼は私の目を見つめた。
「あ、あなたが、しゅっ……好きだす! ぼ、僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」
快晴の青空の下、私より五つも若い彼は、みなぎる想いに輝いて見えた。
初めてだ。
こんなに面と向かって、告白をされたのなんて。そのはずなのに、なぜか、どこか引っかかる。
――初めて?
ふと、誰かに「好き」と言われたような、そんな記憶が脳裏をかすめる。
けれど、そんな事実はない。
ただの私の妄想か。
「あ、あの……隅田川、課長……?」
突然のことに驚きのあまり、現実味がなく茫然としていた。
笹原くんの声に我に返り、その姿を改めて見据える。
恋ってこんなに人を変えるのか。
相変わらず話し方は独特だけれど、初めて会った時とは別人の彼が眩しく映る。
今の笹原くんなら、藤本さんが隣に並んでいても違和感がない。
きっと素敵な恋ができるだろう。
でもなぜか、そこにいるのが自分だとは想像できなかった。
気づけば私は、左手のひらで右手首を握りしめていた。
腕時計もなにもないはずのそこを。
「笹原くん、私――」
ちょうどお昼休み、いつもは藤本さんに誘われて屋上に出るけれど、今日は違う。
まだ誰もいない開けた場所に、私と笹原くんの二人だけ。
屋上のど真ん中に立ち止まった笹原くんは、すっと背を伸ばすと、勢いよく後ろを振り返った。
この数ヶ月でずいぶん様変わりした。
入社当時につけていた、トレードマークとも言えるメガネをコンタクトにし、スーツの趣味もおしゃれになった。
仕事もがんばっていて、最近任される業務も増えた。
これほど垢抜けたのは、彼が恋をしているからだ。
そんな噂はちらほら耳にしていた。
確かに以前、新しい扉が開いたとか、私のためにカッコよくなるとか言っていた気がするけれど――。
「か、課長っ……いえ、す、隅田川、千鶴さんっ……」
ぎゅっと拳を握りしめて、勇気を絞り出すように、彼は私の目を見つめた。
「あ、あなたが、しゅっ……好きだす! ぼ、僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」
快晴の青空の下、私より五つも若い彼は、みなぎる想いに輝いて見えた。
初めてだ。
こんなに面と向かって、告白をされたのなんて。そのはずなのに、なぜか、どこか引っかかる。
――初めて?
ふと、誰かに「好き」と言われたような、そんな記憶が脳裏をかすめる。
けれど、そんな事実はない。
ただの私の妄想か。
「あ、あの……隅田川、課長……?」
突然のことに驚きのあまり、現実味がなく茫然としていた。
笹原くんの声に我に返り、その姿を改めて見据える。
恋ってこんなに人を変えるのか。
相変わらず話し方は独特だけれど、初めて会った時とは別人の彼が眩しく映る。
今の笹原くんなら、藤本さんが隣に並んでいても違和感がない。
きっと素敵な恋ができるだろう。
でもなぜか、そこにいるのが自分だとは想像できなかった。
気づけば私は、左手のひらで右手首を握りしめていた。
腕時計もなにもないはずのそこを。
「笹原くん、私――」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
古都あやかし徒然恋日記
神原オホカミ【書籍発売中】
キャラ文芸
浮見堂でぷうらぷうらと歩いていた俺が見つけたのは、河童釣りをしている学校一の美少女で――!?
古都をさまよう、俺と妖怪と美少女の、ツッコミどころ満載の青春の日々。
脱力系突っ込み大学生×学校一の変人美少女
あやかし系ゆるゆるラブコメ
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。
〇構想執筆:2021年、微弱改稿&投稿:2024年

【完結】おっさん、初めて猫を飼う。~ナル物語~
水瀬 とろん
キャラ文芸
ひょんなことから猫を飼う事になった俺。猫の名はナル。
その猫とこれから生活していくんだが、俺は今まで猫どころか動物など飼ったことが無い。
どうすりゃいいんだ……
猫を巡るドタバタな日常を描く作品となります。
好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。
大事な神事を控えていた巫女さん兼業OL 深月は思わず叫んでいた。
「神の怒りを買ってしまいます~っ」
みんなに深月の相手と認めてもらうため、神事で舞を舞うことになる陽太だったが――。
お神楽×オフィスラブ。
卑屈令嬢と甘い蜜月
永久保セツナ
キャラ文芸
【全31話(幕間3話あり)・完結まで毎日20:10更新】
葦原コノハ(旧姓:高天原コノハ)は、二言目には「ごめんなさい」が口癖の卑屈令嬢。
妹の悪意で顔に火傷を負い、家族からも「醜い」と冷遇されて生きてきた。
18歳になった誕生日、父親から結婚を強制される。
いわゆる政略結婚であり、しかもその相手は呪われた目――『魔眼』を持っている縁切りの神様だという。
会ってみるとその男、葦原ミコトは白髪で狐面をつけており、異様な雰囲気を持った人物だった。
実家から厄介払いされ、葦原家に嫁入りしたコノハ。
しかしその日から、夫にめちゃくちゃ自己肯定感を上げられる蜜月が始まるのであった――!
「私みたいな女と結婚する羽目になってごめんなさい……」
「私にとって貴女は何者にも代えがたい宝物です。結婚できて幸せです」
「はわ……」
卑屈令嬢が夫との幸せを掴むまでの和風シンデレラストーリー。
表紙絵:かわせかわを 様(@kawawowow)
【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
gari@七柚カリン
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。
一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる