猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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導きの時

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 それからしばらく、不思議なことが続いた。
 まずは部長や部下と親しくなっていること。
 特に藤本さんや笹原くんはやけに私に絡んでくるし、私もそれを自然と受け入れている。
 四井住川銀行の大きな仕事を取ったあと、社長の未國さんからやたらと話しかけられるようになった。
 なにか特別なきっかけでもあっただろうかと、首を捻っても覚えがない。
 そんな中、会社の健康診断があり、その結果を持ってきた一人の女性が私の前に立ち止まった。
 クシャクシャに丸めた用紙を握りしめる手が震えている。

「……ど、どうしたの?」

 私が尋ねると、藤本さんは泣き濡れた顔をバッと上げるとともに用紙を広げて見せた。
 否応なしに私の視界に彼女の健康診断結果が提示される。

「こっ、これっ……これ、見てください! あたし、あたし……と、糖尿病の傾向があるってーーー!!」

 うあああーーん、と、人目も憚らず私の胸に飛び込む藤本さん。
 ここはオフィスなので、当然他の社員たちの注目の的になる。

「こ、こんなっ、あたし、こんなに可愛くてスタイル抜群のまだ二十三歳なのにっ……お金持ちの男と結婚もできてないのにーー!」

 ぶりっ子を隠して男漁りをしていた彼女が、遠い記憶に感じられる。
 少々あからさますぎるとは思うけれど、素直に生きた方が楽だろうし、今の彼女はけっこう好きだ。
 だから、よしよし、と低い頭を撫でたあと、ぽんぽんと背中を叩いてあげた。

「大丈夫よ、そこまでひどい結果じゃないし、食べ物に気をつければ十分に改善するわ」
「うっ、うっ……ほ、ほんとですかぁぁ~? じゃ、じゃあ課長がお弁当作ってきてくださいよ~!」
「ええ……まあ、いいけど」
「本当ですか!? わーーい! 千鶴さん大好き結婚してーー!!」

 以前、私の手作り弁当を、まずそうだとか散々言っていたのに、調子がいいんだから。
 そう思いながらあきれたため息をつきながらも、放っておけないので仕方がない。

「あ、あの……課長」

 藤本さんと話していると、横から声がかかり、振り向いた。
 するとそこには、笹原くんが立っていた。

「ちょっと、お話いいでござりますか……?」
「いいけど、どうしたの?」

 即答すると「ここではちょっと」と言うので、私はへばりついた藤本さんを宥めながら引き離して、笹原くんのあとについていくことにした。
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