猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
200 / 206
導きの時

14

しおりを挟む
 それからしばらく、不思議なことが続いた。
 まずは部長や部下と親しくなっていること。
 特に藤本さんや笹原くんはやけに私に絡んでくるし、私もそれを自然と受け入れている。
 四井住川銀行の大きな仕事を取ったあと、社長の未國さんからやたらと話しかけられるようになった。
 なにか特別なきっかけでもあっただろうかと、首を捻っても覚えがない。
 そんな中、会社の健康診断があり、その結果を持ってきた一人の女性が私の前に立ち止まった。
 クシャクシャに丸めた用紙を握りしめる手が震えている。

「……ど、どうしたの?」

 私が尋ねると、藤本さんは泣き濡れた顔をバッと上げるとともに用紙を広げて見せた。
 否応なしに私の視界に彼女の健康診断結果が提示される。

「こっ、これっ……これ、見てください! あたし、あたし……と、糖尿病の傾向があるってーーー!!」

 うあああーーん、と、人目も憚らず私の胸に飛び込む藤本さん。
 ここはオフィスなので、当然他の社員たちの注目の的になる。

「こ、こんなっ、あたし、こんなに可愛くてスタイル抜群のまだ二十三歳なのにっ……お金持ちの男と結婚もできてないのにーー!」

 ぶりっ子を隠して男漁りをしていた彼女が、遠い記憶に感じられる。
 少々あからさますぎるとは思うけれど、素直に生きた方が楽だろうし、今の彼女はけっこう好きだ。
 だから、よしよし、と低い頭を撫でたあと、ぽんぽんと背中を叩いてあげた。

「大丈夫よ、そこまでひどい結果じゃないし、食べ物に気をつければ十分に改善するわ」
「うっ、うっ……ほ、ほんとですかぁぁ~? じゃ、じゃあ課長がお弁当作ってきてくださいよ~!」
「ええ……まあ、いいけど」
「本当ですか!? わーーい! 千鶴さん大好き結婚してーー!!」

 以前、私の手作り弁当を、まずそうだとか散々言っていたのに、調子がいいんだから。
 そう思いながらあきれたため息をつきながらも、放っておけないので仕方がない。

「あ、あの……課長」

 藤本さんと話していると、横から声がかかり、振り向いた。
 するとそこには、笹原くんが立っていた。

「ちょっと、お話いいでござりますか……?」
「いいけど、どうしたの?」

 即答すると「ここではちょっと」と言うので、私はへばりついた藤本さんを宥めながら引き離して、笹原くんのあとについていくことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久
キャラ文芸
闇夜を駆ける少年は、        永い時を生きていく…。  鬼を心臓に宿す小太郎。 人間の中の悪意を食べ、生きている。 そんな小太郎の元に、桃太郎の子孫が現れた。 彼は、先祖がせん滅しそこねた、生き残りの鬼を探しているという。  彼らと戦う中、自分の存在について、悩み苦しむ小太郎。 そんな小太郎に、子孫の青年が下した決断は…。 日本を舞台にしたファンタジーです。 鬼や妖怪の解釈について、作者独自の設定があります。 過去編と現在編で物語を進めて行きます。 ※過去編には、カニバリズム的描写があるので、苦手な方はご注意下さい。

水族園・植物園・昆虫園・動物園・博物園・文学館・歴史館・産業科学館・天文科学館・美術館・音楽館・食文化館・図書館 etc.

淀川 乱歩
エッセイ・ノンフィクション
https://www.irasutoya.com いらすとやは季節のイベント・動物・子供などのかわいいイラストが沢山見つかるフリー素材サイトです。 ガラスの地球を救え―二十一世紀の君たちへ (知恵の森文庫) 文庫 – 1996/9/1 手塚 治虫 (著) 文庫 ¥638 Amazon

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。 ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

麻雀少女激闘戦記【牌神話】

彼方
キャラ文芸
 この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。  麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。  そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。  大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。  ──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。 彼方 ◆◇◆◇ 〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜  ──人はごく稀に神化するという。  ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。  そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。  この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。   ◆◇◆◇ もくじ 【メインストーリー】 一章 財前姉妹 二章 闇メン 三章 護りのミサト! 四章 スノウドロップ 伍章 ジンギ! 六章 あなた好みに切ってください 七章 コバヤシ君の日報 八章 カラスたちの戯れ 【サイドストーリー】 1.西団地のヒロイン 2.厳重注意! 3.約束 4.愛さん 5.相合傘 6.猫 7.木嶋秀樹の自慢話 【テーマソング】 戦場の足跡 【エンディングテーマ】 結果ロンhappy end イラストはしろねこ。さん

処理中です...