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導きの時

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「君の旦那さんは、自分をかわいそうだと言っていたな。しおらしい看護師の演技に騙されたと」

 黒縁メガネから覗くシャープな瞳が、絹恵さんを射抜いた。
 一つに束ねた長い髪と、それに似た本物のポニーテール。上品な洋装の青年に指摘された絹恵さんは、目を見開いて動揺を示した。

「なっ……なんなんだい、あんた、いや、なんなの、あんたたち、おかしな格好をして……誰なんだい!」

 絹恵さんの怒号の矛先には、三角型の耳をした茶髪の少年もいた。

「離婚しているのを隠すのはもう嫌だと、いよいよ出ていったようだな。他の女と一緒になるとか」
「はっ……!? そ、れは――」

 秀馬さんの言葉に、今度は違うざわめきが起きる。
 周囲から「きっちゃん、おめえ、離婚してたのか!」とか「うちらを騙してたのか!」とか、そういうの。
 だから旦那さん――いや、元旦那さんは今日来ていなかったのか。
 妙に納得していると、先日結婚式を挙げたばかりのまりちゃんが「お母さん、私に恥かかせないでよ!」といきりたったが。

「そういうお嬢さんは、お腹の子の父親とは違う人と結婚するんだねぇ」

 カジュアルなパーカー姿の犬斗くんが、可愛らしい顔でとんでもない台詞を飛ばした。
 それを聞いたまりちゃんの顔といったら、今まで見た中で一番ひどかった。
 あからさまに焦る彼女に「どういうことだ!?」と責める夫だったが。

「てめえも人のこと言えねえだろ」
「多額の借金があることを隠して結婚はよくないわね」

 秀馬さんたちとは反対側の壁面に腕を組んで立つ繁寅さんと、彼に寄り添う卯瑠香さん。
 誰かが誰かの悪口を言えば、十二支たちから出る出る、醜い事実の数々。
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