猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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導きの時

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 電話の相手は母の隣人だった。
 回覧板を渡す時に返事がなく、裏口を覗いてみたところ、窓越しに倒れた母に気づいたらしい。
 急いで休暇を取り、田舎へ駆けつけた数日後、彼女は帰らぬ人となった。
 私にとってはあまりに突然のことで、頭がついていかなかった。
 医師に死因を聞き、母の家から薬が見つかったことで、ふと思い当たった。
 結婚式の時、何度も咳き込んでいたこと。たまに胸をさすっていたこと。
 心配しても邪険にされたし、ただの風邪気味かと思っていた。
 まさか肺を患っているとは知らなかったのだ。
 泣くこともできないまま、私は母の亡骸のそばで、これからのことを考えていた。
 ――お葬式、どうしよう。
 悲しむよりも先に、そんな心配をしてしまう私は、やっぱり悪い娘なのかもしれない。
 ――別に、私がしなくても。
 普段から交流のある姉や親戚がいる。
 何年も疎遠になっていた娘よりも、彼女たちに取り仕切ってもらった方が母も喜ぶのではないか。
 私がなにもしなければ、きっと私の愚痴でも言いながら、出しゃばって全部終わらせてくれる。
 けれど、そんな思考を飲み込むように、大きな波が押し寄せる。
 この時私は、目には見えない力が働くのを感じた。
 踏み止まれない、一歩先に、導かれるような気がした。
 ――だから今、私はここにいる。
 自ら喪主を務め、二度と顔も見たくない親族たちの前に立っている。
 ――自分自身に幻滅したくないから。
 これは、ケジメだ。
 母の娘として生きた自分と、これからの、新しい自分に生まれ変わる。
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