猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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導きの時

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「彼への贈り物に、形あるものは不要かと思いましてね。こうして伺いました」
「あの、それはどういう……」
「わかっているのでしょう? ずっとこのままではいられないことを」

 心の中を、見透かされたようだ。
 途方のない歳月を過ごしてきた瞳が、希望と期待で覆っていた不安と核心に迫る。
 考えないで、目を逸らしていたかったこと。
 
「あなたが決断をした時、それが彼との別れになる」

 知っている。
 だから私は、あえて迷いを残しておいた。
 胸にあるわだかまり、重い鉛のように居座っても、見て見ぬふりをして今の生活を守りたかった。
 お母さんとのことを、放置して。

「……大丈夫です、私……彼のことを忘れたりしません」
「そのために立ち止まって、悩んだままでいる、と?」

 視線を逸らさないまま、なにも言わずに立っていた。 
 無言は肯定だ。
 いざとなれば、こちらの暮らしを捨てて、猫宮さんのそばから離れない。
 
「猫宮くんが、本当にそれで喜ぶと思っているんですか?」

 突き詰めればわかることを、あえて言わないでほしい。
 思い知らさないでほしい。
 あの優しい猫宮さんが、自分のために立ち止まって、すべてを捨ててほしいなんて――。
 
「でも、言ってくれたんです。一緒にお店をしようって」

 その言葉に縋っていた。
 猫宮さんがそう言うなら、きっと全部うまくいく。
 彼はいつも夢を見せる。
 だけどそんな彼は――どんな夢を見ているのだろう。
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