猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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「ちづちゃん、すごいね」

 ふと、聞き心地のいい声に鼓膜を刺激され、我に返った。
 気づけば辺りには誰もおらず、猫宮さんと私の二人きりになっている。
 閉店の時間を過ぎたのだ。 
 照明を一段階落とした室内は、営業時間よりもほの明るく優しい光を帯びている。
 カウンター席で隣合った彼と、距離を測りかねてドギマギする。
 なにがすごいのか、と尋ねると、猫宮さんは先ほどの兄妹への私の対応について触れた。

「すっかり彼らに決心させたんだ。迷いを吹っ切らせたんだよ。説得とは違う……ごく自然に、真心を込めて話しただけで」

 うっとりするように宙を眺めながら、感心するように褒める彼に、私は「いえ、そんな」と口籠った。
 
「……ちづちゃんなら、お店をする人にもなれそうだよね」

 私を讃える言葉の線路を切り、ぽつりと漏れた心の声。
 二人きりの静寂の中で、聞き逃すはずがない。
 猫宮さんは私を引き留めた。
 店を閉める頃、客たちを皆見送って。
 私だけに声をかけて、自分だけの空間に閉じ込めた。
 私たちの関係ってなんだろう。
 店主と客。ずっとそう思ってきたけれど――。
 ふと顔を上げ、視線をスライドさせてみると、いつになく真剣な瞳とぶつかった。
 そこにすべての答えがある気がした。

「……僕、ちづちゃんに嫌われてない?」

 予想外の質問に、驚いて目を丸くする。
 私が猫宮さんを嫌うなんてあり得ないのに、なんでそんなことを……と聞く前に、綺麗な唇がまた動く。
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