猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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 ここは人生の通過点。
 だとしたら猫宮さんは、ずっと見送るばかりで――。

「あの、猫宮さ――」

 声をかけようとした時、突然ズゥン、と重苦しい轟音が響いた。
 ミシミシと木がしなる音とともに、料理店が振動する。
 軽い地震のように感じた揺れがすぐに収まると、猫宮さんはなにか思いついたらしくパッと席を立った。
 そんな彼に釣られて牛坐さんや白鳥さんが、続いて他のメンバーもあとを追いかける。
 ぼやっとしていた私も我に返ると、気になって小走りに店を出た。
 玄関から身体を覗かせると、いつも通り、真夜中の宇宙みたいな空間が広がっている。
 店を囲むように帯状に並んだ提灯たち。
 光に照らされた屋根の上には、見たことのない生物が居座っていた。
 ――いや、一度遠巻きに見たかも。
 牛坐さんと喫茶店で待ち合わせした時、移動手段として使われていた翡翠色の竜。
 招かれざる客かと思いきや、きっちり十二支の仲間だった。

「なんだ、竜迅、来てくれたの。蘭蛇も、久しぶりだね」

 闇夜の空間に立った状態で、屋根を見上げた猫宮さんが言った。
 店全体を覆い尽くすような縄の巨体。それに包まれた半分サイズの同形状の生き物。
 頭に二双のツノが生えた大きな竜に、薄紅色の胡蝶蘭のような蛇が首をもたげる。
 
「なんだ、仕事ではなかったのか」

 辰年と巳年は頷いたり首を横に振ったりしながら、牛坐さんや猫宮さんとアイコンタクトを取った。
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