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お礼
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白鳥さんは白く平な皿を両手で持ち、遠慮がちに足を進め、猫宮さんの前に立ち止まった。
「あ、あの、猫様、ワタシ……」
「もう、他のお客様に迷惑をかけないって約束できる?」
もじもじする白鳥さんを前に、猫宮さんは実に堂々としていた。
真剣な表情の猫宮さんを見て、白鳥さんは心持ち背筋を伸ばした。
「あ……は、ハイッ!」
「それなら、いつ来てもいいよ」
硬い表情から一転、ふわっと柔らかな笑顔。
猫宮さんの面持ちから真意を受け取った白鳥さんは、感激のあまり滝のような涙を流していた。
「あっ……あり、あり、ありがとう、ございマス……!」
「どういたしまして」
「あのっ、こ、これ、ワタシの気持ちデス……!」
そう言って白鳥さんが力強く差し出した品は、照り焼きソース輝く鶏もも肉だった。
これには現場の熱が一気に引いた。
酉年が自らチキンを献上するだなんて、私を食べて、というメッセージが含まれているとしか思えない。
「ワー、すごい美味しそう、あとでいただくネ」
猫宮さんもそれを察したのか、笑ったままお礼の言葉を棒読みすると、押し付けられた皿をテーブルの隅に追いやった。
その状況を見物していた牛坐さんが、悔しそうに「むむ」と唸る。
その手に握られていた深めの器。中身はなんとビーフシチュー。
「白鳥め……先を越された」
じっくりコトコト煮込んだ愛情を、隠語ごと食べてほしいと願っていたのは酉年だけではなかったらしい。
丑年、お前もか。
「あ、あの、猫様、ワタシ……」
「もう、他のお客様に迷惑をかけないって約束できる?」
もじもじする白鳥さんを前に、猫宮さんは実に堂々としていた。
真剣な表情の猫宮さんを見て、白鳥さんは心持ち背筋を伸ばした。
「あ……は、ハイッ!」
「それなら、いつ来てもいいよ」
硬い表情から一転、ふわっと柔らかな笑顔。
猫宮さんの面持ちから真意を受け取った白鳥さんは、感激のあまり滝のような涙を流していた。
「あっ……あり、あり、ありがとう、ございマス……!」
「どういたしまして」
「あのっ、こ、これ、ワタシの気持ちデス……!」
そう言って白鳥さんが力強く差し出した品は、照り焼きソース輝く鶏もも肉だった。
これには現場の熱が一気に引いた。
酉年が自らチキンを献上するだなんて、私を食べて、というメッセージが含まれているとしか思えない。
「ワー、すごい美味しそう、あとでいただくネ」
猫宮さんもそれを察したのか、笑ったままお礼の言葉を棒読みすると、押し付けられた皿をテーブルの隅に追いやった。
その状況を見物していた牛坐さんが、悔しそうに「むむ」と唸る。
その手に握られていた深めの器。中身はなんとビーフシチュー。
「白鳥め……先を越された」
じっくりコトコト煮込んだ愛情を、隠語ごと食べてほしいと願っていたのは酉年だけではなかったらしい。
丑年、お前もか。
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