上 下
171 / 206
お礼

30

しおりを挟む
「なぁんて、冗談だよ。本気にしないで」
「ちゅ……チュウゥ……」
「そもそも僕たち猫がネズミを追いかけ回していたからね。多少恨まれても仕方ないよ」

 ネズミに騙されてから猫が仇にするようになったとの噂もあるが、実際は猫が先だったらしい。
 牛坐さんの腰辺りから顔を覗かせた子々子ちゃんは、猫宮さんの毒がない笑みにホッとしたようだった。

「素晴らしい威嚇。痺れるぞ」

 牛坐さんは子々子ちゃんを庇うどころか、猫宮さんのギャップに惚れ直していた。
 そしてどこからか手にした着物を、猫宮さんの前に差し出した。

「どうだ、お前に似合いの生地だろう」
「よくも飽きもせず、そんなに持ってくるものだね」

 ずいと着物を薦める牛坐さんに、ため息混じりに答える猫宮さん。
 会話の流れから常習化していることがわかる。そういえば以前、閉店時にここに飛んだ時、猫宮さんはいつもの作務衣姿ではなかった。粋な布地でこしらえた着物は、牛坐さんからの贈り物と考えれば腑に落ちる。

「はあっ、てめえ、なにぬけがけしてやがんだ!」

 猫宮さん労いの場で、先陣を切った牛坐さんに、飛びかかる勢いで繁寅さんが文句を放った。
 どうやら繁寅さんは自分が作った料理を一番に食べてほしかったらしい。
 すり鉢に入ったデカ盛りラーメンをワゴンから掴み上げ、豪快に猫宮さんの前に置いた。
 海苔の黒とラーメンの黄色が、虎の縞模様に見える。油ギッシュなスープにはうさぎの形をしたカマボコが浮いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

30歳、魔法使いになりました。

本見りん
キャラ文芸
30歳の誕生日に魔法に目覚めた鞍馬花凛。 『30歳で魔法使い』という都市伝説を思い出し、酔った勢いで試すと使えてしまったのだ。 そして世間では『30歳直前の独身』が何者かに襲われる通り魔事件が多発していた。巻き込まれた花凛を助けたのは1人の青年。……彼も『魔法』を使っていた。 そんな時会社での揉め事があり実家に帰った花凛は、鞍馬家本家当主から思わぬ事実を知らされる……。 ゆっくり更新です。 1月6日からは1日1更新となり

YouTuber犬『みたらし』の日常

雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。 二歳の柴犬だ。 飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。 まぁいい。 オレには関係ない。 エサさえ貰えればそれでいい。 これは、そんなオレの話だ。 本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。 無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。

アレの眠る孤塔

不来方しい
キャラ文芸
男性同士の未来の話。  カプセルの中から目覚めたとき、俺は記憶を失われていた。なぜ此処にいるのか、自分の名前は何だったのか、肝心なことは頭の片隅にすらなかった。  突然現れた白衣を着た男は、住み心地の良い牢獄とも取れる部屋で生活するよう強いるが、世話を焼く姿は懸命で、よく皿を割って、涙が出るほど嬉しくて懐かしい。 ──お前は此処から出すつもりはない。  白衣の男は口癖のように繰り返す。外の世界は、一体どんな景色が広がっていて、どんな生き物たちと生存しているのだろうか。  窓のない小さな世界で、愛情を注ぎ続ける男と今日も一日を過ごす──。

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

水族園・植物園・昆虫園・動物園・博物園・文学館・歴史館・産業科学館・天文科学館・美術館・音楽館・食文化館・図書館 etc.

淀川 乱歩
エッセイ・ノンフィクション
https://www.irasutoya.com いらすとやは季節のイベント・動物・子供などのかわいいイラストが沢山見つかるフリー素材サイトです。 ガラスの地球を救え―二十一世紀の君たちへ (知恵の森文庫) 文庫 – 1996/9/1 手塚 治虫 (著) 文庫 ¥638 Amazon

処理中です...