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お礼

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「猫宮さん、たまには……オモテナシ、される側になってみませんか?」

 彼の表情が変わる前に、私は視線を店内へと移した。
 ずらりと続くカウンター席と、その横に並んだテーブル席。
 建物の果てが見えないほど、奥行きのある不思議な空間。

「あのっ……お食事中すみません! 皆様に聞いてほしいことがあります!」

 私の呼びかけに、談笑をしていた客人たちの注目が一気に集まる。
 これまでのどんなプレゼンよりもドキドキする。仕事と割り切っていれば氷の温度で対応できるけれど。
 今は違う。資格や実績とか、それに伴う評価や形になるものが欲しいんじゃない。
 ただ私がやりたいままに、好きになった人のために、行動している。
 だからだろうか。不安よりも清々しい期待に胸躍るのは。

「……私は、二ヶ月ほど前にこの店に来て、猫宮さんに出会って……たくさん、助けられてきました」

 定型のない不恰好な文。
 自分の思いを素直に込めるだけ。

「猫宮さんの気遣いや、いつも変わらず接してくれるところに救われて……今まで気づかなかったことも見えてくるようになりました。人間の世界で疲弊していても……前向きになれる元気をもらっています」

 いつしか店内は静まり返っていた。
 私の言葉だけが響き、浴びる視線には、十二支たちと猫宮さんも混ざっていた。
 
「だから、今日……今夜、今この場所で、猫宮さんにお礼がしたいんです。いつも食事を振る舞ってくれる猫宮さんに、私たちの手料理を食べてほしい。どうか、皆様がいるここで、労いの会をすることを許していただけないでしょうか」
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