猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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「どうした、猫宮、珍しく動揺しているようだが」

 私の後ろから牛坐さんが姿を現すと、猫宮さんの顔が僅かに強張る。

「……なに、牛坐、一緒に来たの?」

 その質問にキョトンとしていると、ははん、となにかを察したふうの牛坐さんに肩を抱かれギョッとした。

「そうだな、千鶴とは仲良くしているのでな」

 にんまりとほくそ笑み、見せつけるように親しげに絡んでくる。そんな牛坐さんに怪訝な目を向け、草履を履いた足を踏みつけてやろうかと考えた時。背を屈め額を寄せてきた牛坐さんに耳打ちされた。「まあ、見ていろ」と。
 わけもわからず身動きが取れずにいると、切れ長の目が得意そうに細められた。
 相変わらず店内は賑わっている。
 うるさいというわけではなく、落ち着いた会話と空気が流れる中、席はほとんど埋まっていた。
 今の私には、もうこの室内にいる客人の全貌が見える。
 初めて来た時とは比べものにならないくらい、視野が広がった証拠だ。
 けれど、猫宮さんはこちらを見ていた。
 他の客たちではなく、私と牛坐さん――いや、私を見据えていた。
 
「……そう、牛坐なら……他の奴らなら外でも一緒にいられるもんね」

 猫宮さんがなにを言ったのか、私には断片的にしか聞き取れなかった。
 けれど表情の変化を見逃さない。
 玄関先からカウンター越しに離れていても、刹那に走った緊張と、傷ついたように揺らいだ長いまつ毛に気づいたから。
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