猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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「おはよう、ございまス……」

 どこからか、微かに言語らしい音が聞こえた気がする。
 ボソボソとこもり、掠れた声。
 私が発したんじゃない。
 だとすれば、この部屋に私以外の誰かがいることになる――?
 背中に悪寒が走り、一気に身体を起こす。
 その勢いで、肩にかかっていた薄い布団がベッドから床に落ちた。
 恐る恐る移動させた視線の先、私のすぐ横にまん丸い鳥目を見つけた。
 
「ひっ……ギャーーーッ!!」

 裏返った声で叫びながら、目一杯後退りするも、壁面に背をぶつけそれ以上は動きが取れない。
 ぼんやりと室内に浮かぶその姿は、確かに見覚えのある人物だった。
 取引先の社長であり、未年である未國さんの会社で受付嬢をしていた、制服もそのままだ。
 短い髪に低い鼻、骨と皮だけでできたような独特な容貌は、一度見れば嫌でも忘れられない。
 猫宮さんの店内でのサプライズには多少耐性ができたとはいえ、普段の生活、しかも早朝から不法侵入者が出てはさすがに驚く。
 けれど猫宮さんも、猫の置き物を私の部屋に届けたくらいだ。十二支たちにとっては、人間のセキュリティや境界など無意味なのだろう。

「……あ、あのう」
「なっ、なんですか!?」
「……電気、つけていただけますカ、鳥目で、見えにくいのデ」

 人の家に勝手に入っておいて、いきなり電気をつけろだとか。
 もっと他に言うことがあるだろうと注意するのもあきらめ、一呼吸整えたあと、ベッドの隅にあったリモコンで明かりをつけた。
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