136 / 206
白昼の衝撃
36
しおりを挟む
「ねえ、ちづちゃん、僕は思うんだ。この店を始めてからたくさんの人に知り合った。生い立ちも違えば境遇も違う、見た目や中身もさまざまで、人の数だけ悩みもあって、その分いろんな道がある。みんながみんなに認められるなんて無理だろうし、そんな必要もないんだって」
猫宮さんは真剣だった。
今までどれだけの人と出会ってきたのだろう。
細く、丸く、自在に変化する球体は、過去の出来事を巡らせるようだった。
「辛いなら切り離せばいい。それは逃げじゃなく、決別という立派な選択肢だ。卒業……と言ってもいいかもしれないね」
柔らかな物腰はそのままに、キッパリと意志を告げる。
控えめな照明さえ煌めきに変える瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。
切り離す。決別。卒業。
そんな言葉が頭の中をこだまする。
やがてその文字は鋭利な切先となり、私の頑なな殻に傷をつける。
きっと、痛いんだ。
殻を破るのは怖い。
その先の世界を見るのが怖い。
だけど、刹那の痛みで飛び立つことができたなら――。
「もちろんいい縁なら修復を勧めるよ。でも、ちづちゃんの苦しんでいる姿を見たら、とてもそんな気にならない。なにを選んだって、ちづちゃんが決めたことなら、僕は全力で応援するから」
この人が与えてくれたナイフなら、恐怖よりも希望が勝る、そんな気がした。
「……そんなこと、言われたら……私、また泣いちゃいますよぉ」
お日様を浴びた水面のように乱反射する光。
視界がぼやけたのは涙ぐんだせいだけじゃない。
猫宮さんは真剣だった。
今までどれだけの人と出会ってきたのだろう。
細く、丸く、自在に変化する球体は、過去の出来事を巡らせるようだった。
「辛いなら切り離せばいい。それは逃げじゃなく、決別という立派な選択肢だ。卒業……と言ってもいいかもしれないね」
柔らかな物腰はそのままに、キッパリと意志を告げる。
控えめな照明さえ煌めきに変える瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。
切り離す。決別。卒業。
そんな言葉が頭の中をこだまする。
やがてその文字は鋭利な切先となり、私の頑なな殻に傷をつける。
きっと、痛いんだ。
殻を破るのは怖い。
その先の世界を見るのが怖い。
だけど、刹那の痛みで飛び立つことができたなら――。
「もちろんいい縁なら修復を勧めるよ。でも、ちづちゃんの苦しんでいる姿を見たら、とてもそんな気にならない。なにを選んだって、ちづちゃんが決めたことなら、僕は全力で応援するから」
この人が与えてくれたナイフなら、恐怖よりも希望が勝る、そんな気がした。
「……そんなこと、言われたら……私、また泣いちゃいますよぉ」
お日様を浴びた水面のように乱反射する光。
視界がぼやけたのは涙ぐんだせいだけじゃない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
財閥のご令嬢の専属執事なんだが、その家系が異能者軍団な件について
水無月彩椰
キャラ文芸
遥か昔からその名を世に明かす事なく、正体を隠して生きてきた『異能者』。
そして、『異能』。
その中でも最高峰の異能を有する者は『長』と呼ばれ、万能と言われる。
―表面は財閥として活動している鷹宮家だが、その実態は影の裏―本質は、異能者組織。
神の業…万能とほど呼ばれる異能を扱う鷹宮家と、そんなものは一切持っていない志津二。
これは、万能と無能が織り成す1つの物語。
執事×異能バトルアクション、今、開幕!
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
お好み焼き屋さんのおとなりさん
菱沼あゆ
キャラ文芸
熱々な鉄板の上で、ジュウジュウなお好み焼きには、キンキンのビールでしょうっ!
ニートな砂月はお好み焼き屋に通い詰め、癒されていたが。
ある日、驚くようなイケメンと相席に。
それから、毎度、相席になる彼に、ちょっぴり運命を感じるが――。
「それ、運命でもなんでもなかったですね……」
近所のお医者さん、高秀とニートな砂月の運命(?)の恋。
大事な思い出を預かるあやかしの店主との出会いによって、私は輝くような人生を手にして幸せになれました
珠宮さくら
キャラ文芸
狐塚あかりは、幼い頃に両親を亡くして、祖父母と暮らしていた。なのに祖父が行方不明となってしまい、嘆き悲しんだ祖母が亡くなってしまって、あかりは途方に暮れてしまう。
そんな時に出会った見た目が青年の美形に渡されたものによって、運命がいい方向に変わることになったようだ。
あやかし温泉街、秋国
桜乱捕り
キャラ文芸
物心が付く前に両親を亡くした『秋風 花梨』は、過度な食べ歩きにより全財産が底を尽き、途方に暮れていた。
そんな中、とある小柄な老人と出会い、温泉旅館で働かないかと勧められる。
怪しく思うも、温泉旅館のご飯がタダで食べられると知るや否や、花梨は快諾をしてしまう。
そして、その小柄な老人に着いて行くと―――
着いた先は、妖怪しかいない永遠の秋に囲まれた温泉街であった。
そこで花梨は仕事の手伝いをしつつ、人間味のある妖怪達と仲良く過ごしていく。
ほんの少しずれた日常を、あなたにも。
絶世の美女の侍女になりました。
秋月一花
キャラ文芸
十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。
旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。
山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。
女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。
しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。
ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。
後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。
祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。
退魔師巫女はお付きのキョンシー男に気がありますが一筋縄とはいきません。
麻麻(あさあさ)
キャラ文芸
街一番の導師の父の末娘 美雨(メイユイ)は後宮勤めの姉とは違い未熟物。お付きのキョンシー男(密かに恋している)と昼は占い屋、夜は退魔をしている。
しかし最近街で優秀な男性が続けて亡くなる事件が起こり2人は動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる