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白昼の衝撃
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状況を上手く飲み込めず、茫然と二人のやり取りを見守る私の元に、もう一つの気配が訪れる。
「千鶴……?」
まろやかな低音が鼓膜をノックする。
聞き覚えのある声に後ろを振り返ると、そこには二双のツノを持った長身の男性が立っていた。
いつもと変わらない無地の白い着物に、紅色の半襟と帯姿の彼は、左右の袖口に両手を潜らせながらこちらを見ている。
「こんなところでなにをしている? どうやって入ってきたのだ?」
それは私が一番聞きたい。
猫宮さんの店の営業時間は午後七時から午前四時まで。なのに私が移動してきた現在時刻は、ランチ時を過ぎた日中真っ只中。
「……わ、私も、わかりません……ただ、この店に来たいと思っていたら、いつの間にか……」
牛坐さんの切れ長の目が、なにか考えるように斜め上を向く。
その黒い瞳を再び私に落とした直後、謎を解き明かしたような不敵な笑みを浮かべた。
「お前の場合は『店に来たい』というより『猫宮に会いたい』のではないか?」
いきなり正論を述べられ、牛坐さんの方に状態を捻ったまま動けなくなる。
カッと顔が熱くなるのがわかる。
店に来たい、なんて誰が聞いても当たり障りのない臆病者の言い訳だ。
「なんだ、牛坐、君の知り合いか?」
「ああ、最近できた常連でな、猫宮とも親しくしている」
「へーっ、宮さんと仲良いんだ? それが今ここに来たのと関係してんのかなぁ?」
「大いにあるだろうな」
分厚いハードカバーの本の閉じる秀馬さんと、牛坐さんの周りをちょこまか動く犬斗くん。
牛坐さんだけは理由を突き止めているようで、いつもに増して余裕の表情をしている。
「千鶴……?」
まろやかな低音が鼓膜をノックする。
聞き覚えのある声に後ろを振り返ると、そこには二双のツノを持った長身の男性が立っていた。
いつもと変わらない無地の白い着物に、紅色の半襟と帯姿の彼は、左右の袖口に両手を潜らせながらこちらを見ている。
「こんなところでなにをしている? どうやって入ってきたのだ?」
それは私が一番聞きたい。
猫宮さんの店の営業時間は午後七時から午前四時まで。なのに私が移動してきた現在時刻は、ランチ時を過ぎた日中真っ只中。
「……わ、私も、わかりません……ただ、この店に来たいと思っていたら、いつの間にか……」
牛坐さんの切れ長の目が、なにか考えるように斜め上を向く。
その黒い瞳を再び私に落とした直後、謎を解き明かしたような不敵な笑みを浮かべた。
「お前の場合は『店に来たい』というより『猫宮に会いたい』のではないか?」
いきなり正論を述べられ、牛坐さんの方に状態を捻ったまま動けなくなる。
カッと顔が熱くなるのがわかる。
店に来たい、なんて誰が聞いても当たり障りのない臆病者の言い訳だ。
「なんだ、牛坐、君の知り合いか?」
「ああ、最近できた常連でな、猫宮とも親しくしている」
「へーっ、宮さんと仲良いんだ? それが今ここに来たのと関係してんのかなぁ?」
「大いにあるだろうな」
分厚いハードカバーの本の閉じる秀馬さんと、牛坐さんの周りをちょこまか動く犬斗くん。
牛坐さんだけは理由を突き止めているようで、いつもに増して余裕の表情をしている。
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