129 / 206
白昼の衝撃
29
しおりを挟む
状況を上手く飲み込めず、茫然と二人のやり取りを見守る私の元に、もう一つの気配が訪れる。
「千鶴……?」
まろやかな低音が鼓膜をノックする。
聞き覚えのある声に後ろを振り返ると、そこには二双のツノを持った長身の男性が立っていた。
いつもと変わらない無地の白い着物に、紅色の半襟と帯姿の彼は、左右の袖口に両手を潜らせながらこちらを見ている。
「こんなところでなにをしている? どうやって入ってきたのだ?」
それは私が一番聞きたい。
猫宮さんの店の営業時間は午後七時から午前四時まで。なのに私が移動してきた現在時刻は、ランチ時を過ぎた日中真っ只中。
「……わ、私も、わかりません……ただ、この店に来たいと思っていたら、いつの間にか……」
牛坐さんの切れ長の目が、なにか考えるように斜め上を向く。
その黒い瞳を再び私に落とした直後、謎を解き明かしたような不敵な笑みを浮かべた。
「お前の場合は『店に来たい』というより『猫宮に会いたい』のではないか?」
いきなり正論を述べられ、牛坐さんの方に状態を捻ったまま動けなくなる。
カッと顔が熱くなるのがわかる。
店に来たい、なんて誰が聞いても当たり障りのない臆病者の言い訳だ。
「なんだ、牛坐、君の知り合いか?」
「ああ、最近できた常連でな、猫宮とも親しくしている」
「へーっ、宮さんと仲良いんだ? それが今ここに来たのと関係してんのかなぁ?」
「大いにあるだろうな」
分厚いハードカバーの本の閉じる秀馬さんと、牛坐さんの周りをちょこまか動く犬斗くん。
牛坐さんだけは理由を突き止めているようで、いつもに増して余裕の表情をしている。
「千鶴……?」
まろやかな低音が鼓膜をノックする。
聞き覚えのある声に後ろを振り返ると、そこには二双のツノを持った長身の男性が立っていた。
いつもと変わらない無地の白い着物に、紅色の半襟と帯姿の彼は、左右の袖口に両手を潜らせながらこちらを見ている。
「こんなところでなにをしている? どうやって入ってきたのだ?」
それは私が一番聞きたい。
猫宮さんの店の営業時間は午後七時から午前四時まで。なのに私が移動してきた現在時刻は、ランチ時を過ぎた日中真っ只中。
「……わ、私も、わかりません……ただ、この店に来たいと思っていたら、いつの間にか……」
牛坐さんの切れ長の目が、なにか考えるように斜め上を向く。
その黒い瞳を再び私に落とした直後、謎を解き明かしたような不敵な笑みを浮かべた。
「お前の場合は『店に来たい』というより『猫宮に会いたい』のではないか?」
いきなり正論を述べられ、牛坐さんの方に状態を捻ったまま動けなくなる。
カッと顔が熱くなるのがわかる。
店に来たい、なんて誰が聞いても当たり障りのない臆病者の言い訳だ。
「なんだ、牛坐、君の知り合いか?」
「ああ、最近できた常連でな、猫宮とも親しくしている」
「へーっ、宮さんと仲良いんだ? それが今ここに来たのと関係してんのかなぁ?」
「大いにあるだろうな」
分厚いハードカバーの本の閉じる秀馬さんと、牛坐さんの周りをちょこまか動く犬斗くん。
牛坐さんだけは理由を突き止めているようで、いつもに増して余裕の表情をしている。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

後宮見習いパン職人は、新風を起こす〜九十九(つくも)たちと作る未来のパンを〜
櫛田こころ
キャラ文芸
人間であれば、誰もが憑く『九十九(つくも)』が存在していない街の少女・黄恋花(こう れんか)。いつも哀れな扱いをされている彼女は、九十九がいない代わりに『先読み』という特殊な能力を持っていた。夢を通じて、先の未来の……何故か饅頭に似た『麺麭(パン)』を作っている光景を見る。そして起きたら、見様見真似で作れる特技もあった。
両親を病などで失い、同じように九十九のいない祖母と仲良く麺麭を食べる日々が続いてきたが。隻眼の武官が来訪してきたことで、祖母が人間ではないことを見抜かれた。
『お前は恋花の九十九ではないか?』
見抜かれた九十九が本性を現し、恋花に真実を告げたことで……恋花の生活ががらりと変わることとなった。

古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記
月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』
でも店を切り盛りしているのは、女子高生!?
九坂家の末っ子・千花であった。
なにせ家族がちっとも頼りにならない!
祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。
あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。
ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。
そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と
店と家を守る決意をした。
けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。
類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。
ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。
そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって……
祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か?
千花の細腕繁盛記。
いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。
伯天堂へようこそ。
羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜
長月京子
キャラ文芸
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。
幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。
時は明治。
異形が跋扈する帝都。
洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。
侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。
「私の花嫁は彼女だ」と。
幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。
その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。
文明開化により、華やかに変化した帝都。
頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には?
人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。
(※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております)
第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞をいただきました。
ありがとうございました!
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

裏路地古民家カフェでまったりしたい
雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。
高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。
あれ?
俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか?
え?あまい?
は?コーヒー不味い?
インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。
はい?!修行いって来い???
しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?!
その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。
第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる