猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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白昼の衝撃

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 ――頭が痛い。薬、買わなきゃ。
 手洗い場で口をゆすぎ、よろよろと階段を降りると着地点でガクンと目線が落ちた。
 同時に膝をついた私の左足のヒールが、見事にポッキリ折れていた。
 しばらく動けないでいると、後方から「大丈夫ですか?」と声が聞こえ、焦って逃げ出した。
 車掌か通りすがりの人だろう、今は誰にも会いたくなかった。こんな自分を認識されたくなかった。消えてしまいたかった。地中深く。
 かろうじてぶら下がったヒールを引きずりながら、どうにか早足で高架下までやって来た。
 もうドラッグストアを探す気力もない。
 増してゆく鈍痛の中で、薄暗く人気ひとけのない、冷たい壁に背を預ける。
 ずるずると重力に任せ地面に座り込むと、自身の膝を抱え込んだ。
 ――痛い、苦しい、気持ち悪い。
 ――助けて、助けて。
 救済を乞う時、私の脳裏にひとひらの輝きが舞った。
 ただの店主と客、そもそも人ですらない彼に。どこまで都合よく頼れば気が済むのだろうか。 
 それでも願わずにはいられない。
 あのすべてを癒してくれる、甘くあたたかな笑顔が見たい。
 今すぐそばで感じたい。
 ――猫宮さんに会いたい。
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