猫の罪深い料理店～迷子さんの拠り所～

白昼の衝撃

25

　それからあとのことはほとんど覚えていない。
　私だけ透明の箱に入れられたみたい、濁った周りの水の中、歪む顔が混ざり合い誰が誰かもわからない。
　初めて食べる結婚式のフレンチ料理はなんの味もしなかった。
　淡々と皿を綺麗にした頃、みんな立ち上がり拍手が起こった。
　誰かが誰かに手紙を読んだらしいけれど、私の耳にはなに一つ届かなかった。
　肩を叩かれ徐に顔を上げると、スーツを着た係の女性が「あの……」と言い辛そうに様子を覗いていた。
　ぼんやりしているうちにお開きになったらしい。華やかな披露宴会場には私だけが取り残されていた。
　パーティーバッグ片手にとぼとぼとその場をあとにすると、元来た道を機械的にたどる。
　一昔前は砂利道だった、今は舗装されたコンクリートの地面。
　私が故郷を離れている間にこんなにも街並みも変わったのだ。
　人の気持ちも変わったっておかしくない。
　進歩したような気になって、あの頃から変われていないのは私の方だった。
　置いてけぼりにされた足が踏みしめる硬い道は、やけに踵に響いて視界を歪ませた。
　途端、腹を圧迫されたような嘔吐感に駆られ、手を口に当て走り出した。
　小さな個人店を横切り、電車の駅の洗面所にたどり着く。
　白い器を前に蹲るようにして、無理矢理詰め込んだ昼食すべてを吐き出した。