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白昼の衝撃
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深い皺を刻んだ皮膚が縁取る目には、私は映っていなかった。
代わりに前方のテーブルに投げかけた視線を、鎮座している絹恵さんが受け取る。
「きっちゃんはいいね、孫にも恵まれて、できた娘を持って羨ましいよ」
お母さんのお姉ちゃんは、少し離れた場所から見てもわかるくらい表情を変貌させた。
下瞼を持ち上げ薄細い半月型になった瞳、口角だけ吊り上げた弓のようなほくそ笑み。
「やぁだ、そんなこと言っちゃ悪いよ、千鶴ちゃんだってがんばっているんだろうしさ」
「よく言う、ならうちのと取り替えてくれるかい」
「それは遠慮したいね」
クスクスと、どこからともなく湧き出す声。
小さな泡が伝染するようにふつりふつりと増してゆく。
なに。なんの音。
四方八方の嘲る壁。
あれ、笑われてるの、私?
「ちーちゃん」
澱む視界に切り込む、穏やかながら語尾の強い声。
ハッと意識を戻した目の前には、彼女の母親とよく似た笑顔の花嫁がいた。
「ほら、私たち、もう三十だしさ? 仕事にかまけてたら女の幸せ逃しちゃうよ? ちーちゃんもがんばらないと」
そう言ったあとで口を結びながら、優越の瞳で肩を揺らす従姉妹。
その姿に便乗するように、嘲笑の壁が厚くなる。
――がんばるって、なにを?
――もう三十?
――女の幸せ?
機械的に瞳を横にずらしてみても、私を育てたはずの人はこちらを見向きもしない。
それどころか他の親戚たちと同じ反応を示していた。
――ああ、そっか。
お母さんは、あちら側についたんだ。
「……あは……はは、は……」
無意識に掴んだ右手首。
私、ちゃんと笑えていますか?
代わりに前方のテーブルに投げかけた視線を、鎮座している絹恵さんが受け取る。
「きっちゃんはいいね、孫にも恵まれて、できた娘を持って羨ましいよ」
お母さんのお姉ちゃんは、少し離れた場所から見てもわかるくらい表情を変貌させた。
下瞼を持ち上げ薄細い半月型になった瞳、口角だけ吊り上げた弓のようなほくそ笑み。
「やぁだ、そんなこと言っちゃ悪いよ、千鶴ちゃんだってがんばっているんだろうしさ」
「よく言う、ならうちのと取り替えてくれるかい」
「それは遠慮したいね」
クスクスと、どこからともなく湧き出す声。
小さな泡が伝染するようにふつりふつりと増してゆく。
なに。なんの音。
四方八方の嘲る壁。
あれ、笑われてるの、私?
「ちーちゃん」
澱む視界に切り込む、穏やかながら語尾の強い声。
ハッと意識を戻した目の前には、彼女の母親とよく似た笑顔の花嫁がいた。
「ほら、私たち、もう三十だしさ? 仕事にかまけてたら女の幸せ逃しちゃうよ? ちーちゃんもがんばらないと」
そう言ったあとで口を結びながら、優越の瞳で肩を揺らす従姉妹。
その姿に便乗するように、嘲笑の壁が厚くなる。
――がんばるって、なにを?
――もう三十?
――女の幸せ?
機械的に瞳を横にずらしてみても、私を育てたはずの人はこちらを見向きもしない。
それどころか他の親戚たちと同じ反応を示していた。
――ああ、そっか。
お母さんは、あちら側についたんだ。
「……あは……はは、は……」
無意識に掴んだ右手首。
私、ちゃんと笑えていますか?
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