猫の罪深い料理店～迷子さんの拠り所～

白昼の衝撃

18

　プロジェクトのチームを組んで、段取りを進める。
　夜は猫宮さんの料理店に行く。
　そんな毎日を送っていたら、あっという間に約束の土曜日がやってきた。
　もう一度断りを入れる根気も、すっぽかす勇気もなかった私は、式に参加する他なかった。
　結局、お母さんの言う通りに動いているのだ。
　家を出て十年経っても、お金という偽の絆で繋がった彼女の呪いは、腐ってもなお、私の中に居座っている。
　胸元にレースがあしらわれた、ストンと落ち着いた黒のワンピース。ベージュのクラッチバッグとハイヒール、一粒ダイヤのピアス、バングル型の腕時計。
　初参列になる結婚式のため、急いで調達したパーティースタイル。
　地味すぎず、華やかすぎず、年相応で恥ずかしくない装い。
　すべて名の知れた高級ブランドで固めた、これで文句は言われないはずだ。
　お母さんから送られてきたメール、そこに記載されている式場の名前を地図アプリに入力し、朝早くに出発した。
　式が始まる昼時に着くには、私の家から五時間近くかかるからだ。
　東北の田舎町。
　鉄道なんて近くになければ、バスも滅多に通らない。車も時折横切るくらいで、見渡す限り田んぼだらけ、過疎化一直線の寂れた村。
　そこが私の故郷。
　新幹線から乗り継いだ電車を降りると、この辺りでは比較的大きな駅に出る。
　空気が綺麗なのが取り柄のはずなのに、どんどん肺に澱みが溜まっていくようだ。
　そこから数分歩けば、三角の白い屋根がいくつか見えてくる。
　とんがりを支える筒形の柱が並び、神殿とお城が一緒になったような、純白の建物が現れた。
　女性なら誰もが一度は憧れるのだろうか。
　私には清廉なチャペルの入り口が、鬼門にしか見えなかった。