116 / 206
白昼の衝撃
17
しおりを挟む
あたたまっていた感情が凍りつく。
酸素の少ない場所に突き落とされたみたい、呼吸がし辛くなる。
部長も私の異変を悟ったのだろう。
心配そうな面持ちで様子を窺うので、お昼行ってください、と小さな声で促した。
部長が給湯室を出ると、改めて電話口の相手と向き合う。
あんたは本当にそそかっしいんだから。
昔から肝心なところで失敗する。
だから結局なにも身にならないんだよ。
数えるのもあきらめるほどに、繰り返されてきた台詞。
無意味な相槌の分だけ、身体が重くなる。
またお金の催促だろうか。この前送ったはずなのに。
けれど今回ばかりは、私の予想が外れた。
「まりちゃんが結婚することになってね。来週の土曜日に式があるから来るんだよ」
まりちゃん。
その名前を聞くと心にモヤがかかるようだ。
親戚というのはどうして仲良くなくても、イベントの度集まることが当然になっているのだろう。
しかもその日は、仕事の予定を立てようと考えていた。結婚式ならもっと前にわかっていたはずなのに、いきなり直前に言われても困る。
「……来週の土曜日はちょっと、大事な仕事が入りそうで」
「なんだって? 仕事ぉ? 大したこともしてないくせに、よくそんな偉そうなことが言えたもんだね」
いつもならここで引き下がるはずだけれど。
今ならほんの少し、先に進める気がして。
スマートフォンを持った右手首を、もう一方の手でぎゅっと握りしめた。
「……えら、そうに言ってるわけじゃなくて、本当に大きな任務抱えてて、だから、私の仕事……そんなふうに、言わ、ないでほしい」
猫宮さんのお守りは確かに私に力を貸してくれたのに。
お母さんはヒステリックに私を罵るだけだった。
「仕事なんかより人付き合いの方が大切でしょうが、いい年してそんなこともわからないのかい、私に恥をかかせたら許さないからね」
ブチリと切られた声の繋がり。
仕事なんかより、人付き合い。
今更あなたがそれを言うのか。
そうだ、猫宮さんは教えてくれた。
片方がどれだけ手を伸ばしても、受け取る手がなければ救いは生まれないのだ。
酸素の少ない場所に突き落とされたみたい、呼吸がし辛くなる。
部長も私の異変を悟ったのだろう。
心配そうな面持ちで様子を窺うので、お昼行ってください、と小さな声で促した。
部長が給湯室を出ると、改めて電話口の相手と向き合う。
あんたは本当にそそかっしいんだから。
昔から肝心なところで失敗する。
だから結局なにも身にならないんだよ。
数えるのもあきらめるほどに、繰り返されてきた台詞。
無意味な相槌の分だけ、身体が重くなる。
またお金の催促だろうか。この前送ったはずなのに。
けれど今回ばかりは、私の予想が外れた。
「まりちゃんが結婚することになってね。来週の土曜日に式があるから来るんだよ」
まりちゃん。
その名前を聞くと心にモヤがかかるようだ。
親戚というのはどうして仲良くなくても、イベントの度集まることが当然になっているのだろう。
しかもその日は、仕事の予定を立てようと考えていた。結婚式ならもっと前にわかっていたはずなのに、いきなり直前に言われても困る。
「……来週の土曜日はちょっと、大事な仕事が入りそうで」
「なんだって? 仕事ぉ? 大したこともしてないくせに、よくそんな偉そうなことが言えたもんだね」
いつもならここで引き下がるはずだけれど。
今ならほんの少し、先に進める気がして。
スマートフォンを持った右手首を、もう一方の手でぎゅっと握りしめた。
「……えら、そうに言ってるわけじゃなくて、本当に大きな任務抱えてて、だから、私の仕事……そんなふうに、言わ、ないでほしい」
猫宮さんのお守りは確かに私に力を貸してくれたのに。
お母さんはヒステリックに私を罵るだけだった。
「仕事なんかより人付き合いの方が大切でしょうが、いい年してそんなこともわからないのかい、私に恥をかかせたら許さないからね」
ブチリと切られた声の繋がり。
仕事なんかより、人付き合い。
今更あなたがそれを言うのか。
そうだ、猫宮さんは教えてくれた。
片方がどれだけ手を伸ばしても、受け取る手がなければ救いは生まれないのだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
モノの卦慙愧
陰東 愛香音
キャラ文芸
「ここじゃないどこかに連れて行って欲しい」
生まれながらに異能を持つひなは、齢9歳にして孤独な人生を強いられた。
学校に行っても、形ばかりの養育者である祖父母も、ひなの事を気味悪がるばかり。
そんな生活から逃げ出したかったひなは、家の近くにある神社で何度もそう願った。
ある晩、その神社に一匹の神獣――麒麟が姿を現す。
ひなは彼に願い乞い、現世から彼の住む幽世へと連れて行ってもらう。
「……ひな。君に新しい世界をあげよう」
そんな彼女に何かを感じ取った麒麟は、ひなの願いを聞き入れる。
麒麟の住む世界――幽世は、現世で亡くなった人間たちの魂の「最終審判」の場。現世での業の数や重さによって形の違うあやかしとして、現世で積み重ねた業の数を幽世で少しでも減らし、極楽の道へ進める可能性をもう一度自ら作るための世界。
現世の人のように活気にあふれるその世界で、ひなは麒麟と共に生きる事を選ぶ。
ひなを取り巻くあやかし達と、自らの力によって翻弄される日々を送りながら、やがて彼女は自らのルーツを知ることになる。
後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~
絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。
※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。
引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます
ジャン・幸田
キャラ文芸
アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!
そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる