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白昼の衝撃
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その後、いつもの習慣で歯を磨きに給湯室へ向かった。
「ちーづーちゅわぁぁん」
背後からぬうっと現れた気配に、歯磨き粉が変なところに入る。
盛大に咽せながら胸を叩いていると「ごめんごめん」と声をかけられながら背中をトントンされた。
涙目で振り返ると、少し低い場所に面白そうににやついた顔がある。
絶対に悪いと思ってないな。
「もうっ、その呼び方やめてくださいよ、部長!」
「ほう、猫宮くんはいいのに、わしはダメなのかね」
この人は真っ昼間から酔っ払っているのだろうか。
小さな目を三日月型に反らす部長に思うが、さすがにそんなはずはない。
恐らく今の部長が、素に近い状態なのだろう。仕事だけで見る顔なんて、その人のほんの一面でしかないと感じた。
白いプラスチックのコップを口にし、水で数回ゆすいだあと、タオルハンカチで潤いを拭った。
「出張じゃなかったんですか」
「早めに終わったのでね、今から昼ご飯を食べに行くよ」
いったんデスクに戻り、外出する途中で私を見つけて話しかけに来たらしい。
ずいぶん砕けた接し方の部長に、昨夜の出来事が現実味を帯びる。
「奥さんと話はできたんですか?」
そう問いかけると先ほどまでの調子はいずこへ、部長は背中を丸めて情けなく眉を垂らした。
「旅館に誘ってみたら、一人か友達と行くって言われてね」
「……それで、どうしたんですか?」
「少しムッとして、それから口を利いていない」
そうなってしまうと、元の木阿弥ではないか。
「ちーづーちゅわぁぁん」
背後からぬうっと現れた気配に、歯磨き粉が変なところに入る。
盛大に咽せながら胸を叩いていると「ごめんごめん」と声をかけられながら背中をトントンされた。
涙目で振り返ると、少し低い場所に面白そうににやついた顔がある。
絶対に悪いと思ってないな。
「もうっ、その呼び方やめてくださいよ、部長!」
「ほう、猫宮くんはいいのに、わしはダメなのかね」
この人は真っ昼間から酔っ払っているのだろうか。
小さな目を三日月型に反らす部長に思うが、さすがにそんなはずはない。
恐らく今の部長が、素に近い状態なのだろう。仕事だけで見る顔なんて、その人のほんの一面でしかないと感じた。
白いプラスチックのコップを口にし、水で数回ゆすいだあと、タオルハンカチで潤いを拭った。
「出張じゃなかったんですか」
「早めに終わったのでね、今から昼ご飯を食べに行くよ」
いったんデスクに戻り、外出する途中で私を見つけて話しかけに来たらしい。
ずいぶん砕けた接し方の部長に、昨夜の出来事が現実味を帯びる。
「奥さんと話はできたんですか?」
そう問いかけると先ほどまでの調子はいずこへ、部長は背中を丸めて情けなく眉を垂らした。
「旅館に誘ってみたら、一人か友達と行くって言われてね」
「……それで、どうしたんですか?」
「少しムッとして、それから口を利いていない」
そうなってしまうと、元の木阿弥ではないか。
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