猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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白昼の衝撃

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 とりあえず先に文句が出るなんて、そんなところ、お母さんに似なくていいのに。
 胸の内で自分を諌めると、ゴホンと一つ咳払いをして、改めて笹原くんを見上げた。

「……まあ、がんばりは、認めるわ。これだけするの、大変だったと思うし」

 私は人を褒めるのが苦手だ。
 褒められた経験が乏しいせいか、例になるバリエーションが少なすぎる。
 だから、すかすかの脳内辞典で使える文字を組み合わせるしかない。
 そんなありきたりで、ぎこちない褒め言葉。
 それでも笹原くんには響いたらしく、さっきとは別人のように瞳を輝かせていた。

「やっぱり、課長って本当はとっても優しい方なんですね!」

 彼の一転した表情と台詞に、怪訝な面持ちで首を傾げる。
 すると私と笹原くんの間に藤本さんが割り込んできた。
 席につく社員たちのずらりと並んだデスクの傍らで、私たち三人だけが立ち止まっている。

「笹原の奴、課長のこと狙ってるみたいですよ」
「……はあ?」
「昨日の帰り、照れた様子の課長が可愛かったって、ギャップにやられたんじゃないですか~」

 こそこそ、私にだけ聞こえるように話す彼女に「はあ?」の疑問符が止まらない。
 しかし、百聞は一見にしかず。
 笹原くんの様子を前にすると、理由はともかく、結果は事実なのだとわかってしまう。

「ぼ、僕……昨夜の課長に新しい扉が開いてしまいました!!」

 ある意味告白よりも大胆な発言は、今ここにいる全員の耳に入った。
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