猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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白昼の衝撃

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 藤本さんは職場はもちろん、関連会社の人とも仲がいい。同じビル内とはいえ、一緒に仕事をしているわけでもないのに、どうしてそんなに顔が広いのか不思議だった。
 サボり癖はあるものの、やるべき仕事は時間内にこなすし、遅刻はしたことがない。
 冷静になって考えてみると、けっこういいところがあるんじゃないか。
 悪いところももちろんあるけれど、きっとそれはお互い様で。
 完璧な人間なんて……この世にいるのだろうか?

 藤本さんは大きな目で私を見たあと、少し物憂げに手元に視線を戻した。

「……気配りはできるようにって、散々言われて育ったんで」
「言われたって……親に?」
「はい、特に母親ですね。女は明るく可愛く、気遣いができてなんぼだって」

 各家庭による教育方針。
 それが愛情の枠だと決める秤はどこにあるのか、私は未だに知らない。

「兄は散々お金かけてもらってたんです、大学に習い事に……男だから必要だって。なのに今プー太郎で、バカみたいですよね。女は結婚して子供生むんだし仕事なんか適当でいいって。私中身空っぽなんです。だから色気出して男捕まえるしかないんですよ」

 綺麗に丸めたゴミを乳白色の小袋に詰める。
 藤本さんの手が僅かに震えて見えたのは気のせいだろうか。
 二人して立ち上がり、硬い床を踏みしめる。
 珍しく俯きがちな彼女を前に「そんな必要ないと思うけど」と、つぶやいた。

「みんなの前でぶりっ子してるあなたよりも、今のあなたの方が私は好きだけど」

 顔を上げ、マスカラこってりのまつ毛を瞬かせる藤本さん。
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