102 / 206
白昼の衝撃
3
しおりを挟む
「ちょっと課長、気をつけてくださいよ!」
息巻く藤本さんにピクリと片眉を痙攣させる。派遣社員だというのに、態度は社長より大きい。このぶりっ子の本性に気づかない男たちは目が節穴だ。
「それはこっちの台詞よ、ずいぶん急いでたようだけど?」
「医者との合コンが決まったんで、テンション上がってお手洗いで返信しようと思って走ってきたんです」
――医者、の一言が私の心に引っかかる。
普段見て見ぬふりをしているささくれは、ちょっとした刺激で簡単に痛む。
そもそも医者、という職業は誰かの役に立ちたいとか、命を救うという奉仕精神から目指すものではないか。
それに付随してくる地位や金メインで考えることがそもそも間違いで、伴侶は誰かに見せびらかすアクセサリーではない。
と言ってやりたいのは山々だけれど、恋愛経験ゼロの私にこの手の意見は難しかった。
そもそもぶつかったのは、トートバッグを覗き込んでいた私にも責任がある。
歩く振動で傾いて中身が崩れていないかなど、スウィーツの安否確認に気を取られていて――。
そこでようやく現状を理解した私は、焦って起き上がると頭を忙しなく動かした。
肩にかけていたはずのトートバッグはすぐそばの床に横たわっていたが、肝心な荷物がどこにもない。
黒革の内側を探る中、視界の隅を掠めた影を振り返る。
乳白色の小袋からはみ出たプラスチックの透明容器。悲しいかな、蓋の力は及ばず、中身が全部ぶちまけられていた。
息巻く藤本さんにピクリと片眉を痙攣させる。派遣社員だというのに、態度は社長より大きい。このぶりっ子の本性に気づかない男たちは目が節穴だ。
「それはこっちの台詞よ、ずいぶん急いでたようだけど?」
「医者との合コンが決まったんで、テンション上がってお手洗いで返信しようと思って走ってきたんです」
――医者、の一言が私の心に引っかかる。
普段見て見ぬふりをしているささくれは、ちょっとした刺激で簡単に痛む。
そもそも医者、という職業は誰かの役に立ちたいとか、命を救うという奉仕精神から目指すものではないか。
それに付随してくる地位や金メインで考えることがそもそも間違いで、伴侶は誰かに見せびらかすアクセサリーではない。
と言ってやりたいのは山々だけれど、恋愛経験ゼロの私にこの手の意見は難しかった。
そもそもぶつかったのは、トートバッグを覗き込んでいた私にも責任がある。
歩く振動で傾いて中身が崩れていないかなど、スウィーツの安否確認に気を取られていて――。
そこでようやく現状を理解した私は、焦って起き上がると頭を忙しなく動かした。
肩にかけていたはずのトートバッグはすぐそばの床に横たわっていたが、肝心な荷物がどこにもない。
黒革の内側を探る中、視界の隅を掠めた影を振り返る。
乳白色の小袋からはみ出たプラスチックの透明容器。悲しいかな、蓋の力は及ばず、中身が全部ぶちまけられていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜
星名柚花
キャラ文芸
夏祭りの夜、あやかしの里に迷い込んだ美緒を助けてくれたのは、小さな子狐だった。
「いつかきっとまた会おうね」
約束は果たされることなく月日は過ぎ、高校生になった美緒のもとに現れたのは子狐の兄・朝陽。
実は子狐は一年前に亡くなっていた。
朝陽は弟が果たせなかった望みを叶えるために、人の世界で暮らすあやかしの手助けをしたいのだという。
美緒は朝陽に協力を申し出、あやかしたちと関わり合っていくことになり…?
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。
会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(令和ver.)
志野まつこ
恋愛
【完結】以前勤めていた会社で王子と呼ばれていた先輩に再会したところ王子は案の定、独身貴族になっていた。
妙なところで真面目で所々ずれてる堀ちゃん32歳と、相変わらず超男前だけど男性だらけの会社で仕事に追われるうちに38歳になっていた佐々木 太郎さんこと「たろさん」の物語。
どう上に見ても30過ぎにしか見えないのに、大人の落ち着きと気遣いを習得してしまった男前はもはや無敵だと思います。
面倒な親や、元カノやら元カレなどが出ることなく平和にのほほんと終わります。
「小説家になろう」さんで公開・完結している作品を一部時系列を整え時代背景を平成から令和に改訂した「令和版」になります。
卑屈令嬢と甘い蜜月
永久保セツナ
キャラ文芸
【全31話(幕間3話あり)・完結まで毎日20:10更新】
葦原コノハ(旧姓:高天原コノハ)は、二言目には「ごめんなさい」が口癖の卑屈令嬢。
妹の悪意で顔に火傷を負い、家族からも「醜い」と冷遇されて生きてきた。
18歳になった誕生日、父親から結婚を強制される。
いわゆる政略結婚であり、しかもその相手は呪われた目――『魔眼』を持っている縁切りの神様だという。
会ってみるとその男、葦原ミコトは白髪で狐面をつけており、異様な雰囲気を持った人物だった。
実家から厄介払いされ、葦原家に嫁入りしたコノハ。
しかしその日から、夫にめちゃくちゃ自己肯定感を上げられる蜜月が始まるのであった――!
「私みたいな女と結婚する羽目になってごめんなさい……」
「私にとって貴女は何者にも代えがたい宝物です。結婚できて幸せです」
「はわ……」
卑屈令嬢が夫との幸せを掴むまでの和風シンデレラストーリー。
表紙絵:かわせかわを 様(@kawawowow)


高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる