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奇妙な仲間たち
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「邪魔かなと思っただけだから、気に入ってくれたならそれも持っていて…………ここのお客様であるうちは」
最後の一文は細やかで聞き取れなかった。
なんと言ったのか、瞳で問いかける私に、猫宮さんは綺麗に微笑んだ。どこか寂し気な匂いを纏わせながら。
「……ありがとうございました」
――また来てください。
そう言わない、言えない理由が、今の私にはわかる気がした。
ここに来る人はみんな、なんらかの悩みを抱え、生きる道に迷っている。
その継続を願うようなこと、口にはできないのだ。
「……猫宮さん、私……また、来ます、必ず」
正しさは、わからない。
ただ言わずにはいられなくてこぼれ落ちた言葉を、猫宮さんはそっと笑顔で拾い上げてくれた。
「……待ってるね」
猫宮さんと揃いの鈴、金糸を揺らしながら引き戸を開き、暖簾をくぐる。
帰宅すれば殺風景なリビングに、一際目立つ煌めきを見つけた。
キッチン台、毎日のカロリー計算表の下、蜂蜜色に光る十センチ大の置き物。
右前足で招く形を取り、左前足に持った小判には「宮」の一文字。満面の笑みを讃える猫に首輪はなく、その代わり右耳に鈴がついていた。
「……これって、招き猫なんじゃ?」
初めての注文に、少し悩んでしまったのだろうか?
彼の想像と喜び、がんばりが詰まった記念日に、自然と口元が緩む。
十二支のはぐれ者、店主をもじった可愛い猫が我が家の仲間入りを果たした。
最後の一文は細やかで聞き取れなかった。
なんと言ったのか、瞳で問いかける私に、猫宮さんは綺麗に微笑んだ。どこか寂し気な匂いを纏わせながら。
「……ありがとうございました」
――また来てください。
そう言わない、言えない理由が、今の私にはわかる気がした。
ここに来る人はみんな、なんらかの悩みを抱え、生きる道に迷っている。
その継続を願うようなこと、口にはできないのだ。
「……猫宮さん、私……また、来ます、必ず」
正しさは、わからない。
ただ言わずにはいられなくてこぼれ落ちた言葉を、猫宮さんはそっと笑顔で拾い上げてくれた。
「……待ってるね」
猫宮さんと揃いの鈴、金糸を揺らしながら引き戸を開き、暖簾をくぐる。
帰宅すれば殺風景なリビングに、一際目立つ煌めきを見つけた。
キッチン台、毎日のカロリー計算表の下、蜂蜜色に光る十センチ大の置き物。
右前足で招く形を取り、左前足に持った小判には「宮」の一文字。満面の笑みを讃える猫に首輪はなく、その代わり右耳に鈴がついていた。
「……これって、招き猫なんじゃ?」
初めての注文に、少し悩んでしまったのだろうか?
彼の想像と喜び、がんばりが詰まった記念日に、自然と口元が緩む。
十二支のはぐれ者、店主をもじった可愛い猫が我が家の仲間入りを果たした。
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